【実像】成人年齢引き下げ3カ月 18、19歳貸付の現状

2022.07.14 04:43
金融教育 貸出・ローン 若年層取引
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SMBCコンシューマーファイナンスは、かなざわ食マネジメント専門職大学(石川県白山市)で1、2年生を対象に金融教育セミナーを開いた(6月1日)

4月の成人年齢引き下げにより、18、19歳が親の同意なくローン契約を結べるようになった。社会経験が乏しい新成人が過剰債務に陥るのを防ぐため、政府は貸金業界に自主ルールの策定を要請。各社はルールを踏まえた業務運営を徹底しており、今のところ目立った苦情は発生していない。金融庁は今後、検査も活用して詳細な状況を把握する方針だ。


トラブル報告なし


2018年の民法改正による成人年齢の引き下げは、若者の主体的な社会参加を後押しし、それによって社会に活力を与えることを狙ったものだ。半面、大人の仲間入りをする18、19歳は親の同意なく結んだ契約を取り消せる「未成年者取消権」を失うことになるため、悪徳業者にだまされるなどの消費者被害が懸念された。


実際に成人年齢が引き下げられたのは22年4月。それから3カ月半経過したが、貸金業界からは新成人への貸し付けを巡るトラブルは聞こえてこない。日本貸金業協会は「現時点で問題のある業者はなく、資金需要者サイドを見ても苦情はない」と指摘。金融庁の金融サービス利用者相談室にも「苦情は寄せられていない」(同庁)という。


貸金業協会が会員向けに実施した5月の調査によると、新成人向け貸し付けを4月から開始したのは39社。その一つ、大手消費者金融のSMBCコンシューマーファイナンス(プロミス)は「18、19歳にはより慎重な対応が必要との認識を持っている」(企画調査室)と話す。別のノンバンクも「節度を持った対応を心掛けている」と強調する。


収入状況を必ず確認


各社は新成人貸し付けで、貸金業協会が2月に定めた自主ガイドライン(指針)を順守している。同指針には、(1)収入状況を示す書類の確認(2)資金使途の確認と名義貸しなどへの注意喚起(3)若年層を狙った広告・勧誘の禁止――の3点を規定。とくに(1)は、20歳以上では50万円以上が対象だったが、新成人向けでは金額を問わず必須とした。


プロミスではこの指針を踏まえ、4月1日の新成人貸し付け開始までに社内規則を制定。さらに収入証明書の取得漏れを防ぐシステム改修を実施したほか、金融犯罪への注意喚起やリボルビング払いの仕組みを解説する2分34秒の啓発動画も作成した。申し込みの9割以上を占めるウェブ経由では、契約前に必ず動画を視聴してもらう。


貸金業界がこうした対策を導入する端緒となったのは、政府が1月に開いた関係閣僚会合だ。岸田文雄首相は消費者被害を抑えるため、「関係業界への働き掛けを通じた適切な配慮の確保が特に重要」と表明。その一つとして貸金業協会による指針の策定が決まった。


若年者保護への政府の強い決意を真剣に受け止め、新成人貸し付けを見送る方針に転じた貸金業者も少なくなかったようだ。同会合前の21年11~12月に貸金業協会が実施した調査では、消費者貸し付けを行う会員539社のうち182社が新成人貸し付けを予定していたが、5月調査では「開始済み・5月予定」は42社に減った。ちなみに、銀行界は全行がカードローンの提供を自粛した。



ON【拡大】@画像_金融トラブル被害防止セミナーの様子_日本貸金業協会
日本貸金業協会は18、19歳の消費者被害防止へ大学などで出前講座を実施しえいる

貸さねばヤミ金被害


18、19歳貸し付けへの参入を決めたノンバンクも難しい決断を迫られた。実務的には、指針を充足するためのシステム改修や業務フローの見直し、従業員教育などのコストが追加で掛かる一方、1件あたりの貸付額は少額で、大きな収益を得られるわけではない。


それでも、「全く貸さないと健全な資金ニーズがヤミ金に流れてしまう」(大手ノンバンク)ため、貸し手となる社会的意義があると判断。目先の取引は少額でも、一度関係ができれば、将来の資金ニーズ発生時に再び利用してもらえる可能性も見込んだという。


4月以降の各社の具体的な貸付額は不明だが、資金ニーズは相応にあるようだ。プロミスでは教育資金や自動車の購入費などを使途に、「4月は想定より多く、その後も継続して一定の申し込みがある」という。ある業界関係者は、「新生活が始まる4月は特に資金需要が強い」と話す。


申し込みが契約に至る成約率は「他の年代に比べると低い」(大手ノンバンク)との指摘もある。要因の一つは、資金使途や返済能力の確認を他の年代よりも慎重に行っていること。マルチ商法などにだまされている若者が、使途を偽って申し込む事例もないわけはなく、「丁寧に聞き取りをしている」(同)という。


一部には収入証明書の取得に難しさを感じる業者もあるようだ。学生ローンを専門に扱う東京都内の業者では、3月に高校を卒業して大学に入学したばかりの学生による教科書代(数万円)の借り入れニーズがあったが、収入証明書の確認ができず対応できない例もあったという。


金融庁は検査を計画


まずは大きな消費者トラブルがなく動き出した18、19歳貸し付け。今後も各業者の適切な業務運営を確保していくうえでは、貸金業協会や当局によるモニタリングも欠かせない。


貸金業協会は、審査・モニタリングで会員の広告に新成人をターゲットにするかのような文言がないかを確認。ホームページの記載内容も検証している。また今後、実地監査により新成人貸し付けを手掛けるノンバンクの指針の順守状況を点検する。


金融庁は3月から新成人貸し付けの専担者を1人配置し、貸金業者へのモニタリングを強化している。足元では各業者にヒアリングして貸し付け動向などを把握。詳細は検討中だが、今後は財務局を通じて検査も実施し、体制整備などをより細かく検証する。当局では、各都道府県も検査を予定する。



ON@画像_啓発ツールの大学学生課窓口での設置状況_日本貸金業協会
日本貸金業協会は大学に啓発ツールを設置

【啓発・教育活動も大切に】


若年層の金融トラブルを未然に防ぐにはどうすれば良いか。貸金業界関係者が口をそろえるのは、金融リテラシーの向上を後押しする金融教育の重要性だ。成人年齢引き下げを受けて一段と力が入る。


日本貸金業協会は2021年度に、大学や高校、専門学校などで出前講座を実施し、累計で約2300人が受講したという。22年度も継続するほか、3月からはYouTubeで金融犯罪の手口を学べる啓発動画の配信も始めた。大学などに啓発ツールも配布している。


SMBCコンシューマーファイナンスは毎年15万~20万人に金融教育を実施している。講義内容は要望に応じて調整し、全国の財務局など関係先と連携することもある。「今年度も昨年度以上に展開したい」(同社)と話す。

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