【実像】岐路の債券運用(上)急旋回のFRB、動けぬ邦銀

2022.06.02 04:47
有価証券運用 FRB
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金融機関の有価証券運用が岐路に立たされている。海外の中央銀行がコロナ禍を受けた大規模金融緩和から「引き締め」にかじを切り、米FRB(連邦準備制度理事会)は利上げを加速。残高を積み上げてきた外国債券は価格低下(金利上昇)で含み損が急拡大しているためだ。超低金利環境下、収益を下支えしてきた債券運用が大きな下振れリスクに変わりつつある。「金利が上がる時代」の針路を探る。


危機対応でBS膨張


「3カ月足らずで100ベーシスポイント(1bp=0.01%)も上がるとは」――。ある信金関係者は今春にみられた〝金利急騰〟を嘆く。2022年初めに1%台半ばだった米長期金利は5月に3%台に達した。FRBが高インフレの長期化を警戒し、政策スタンスを引き締めるタカ派に転向後、その姿勢を急速に強めたことが背景にある。外債シフトを進めてきた邦銀は多大な含み損を抱える事態に陥った。


新型コロナウイルス感染拡大が世界的に深刻化して金融市場が動揺した2020年3月。基軸通貨を発行するFRBは「救世主」だった。無制限の流動性供給と2度の緊急利下げによる〝ゼロ金利〟復活で世界経済や金融市場に「安心感」を与え、金融危機の回避に貢献した。


半面、バランスシート(BS)は急拡大。米国債など保有長期証券は8.1兆ドル(22年3月末)を超え、リーマン・ショック期を大きく上回る規模に膨らんだ。20年8月には物価目標の「2%超容認」を表明。ゼロ金利を「少なくとも23年末まで維持する」見通しを示し、一定期間の超低金利環境継続を訴えた。


「コロナ禍は物価に対してデフレ的に作用すると世界的にみられ、景気回復を下支えする姿勢を鮮明にすることが重要だとFRBは考えていた」(市場関係者)。政府も20年春以降、トランプ、バイデン両政権下、コロナ対応などで巨額な財政出動を相次ぎ発動し、米経済を支えた。


同時期、経済復調の鍵を握るコロナワクチンが先進国を中心に普及し始めて需要は急回復。一方、原材料などを生産する新興国の低いワクチン接種率や変異株蔓延でサプライチェーンの目詰まりが顕在化。供給制約が意識され、「デフレからインフレへ」の環境変化が進み、マーケットでは21年春ごろにテーパリング(量的緩和の縮小)などを警戒し始めた。


「雇用」強く  タカ派へ


消費者物価の高まりが目立ち始めた当初、FRB高官の多くは「一時的」との見方を繰り返し強調。「2%」を大きく上回る局面が訪れても、パウエル議長らはその姿勢を崩さなかった。背景には、「雇用の最大化」を使命の一つとするなかで目を配る「労働市場」の動向がある。


「表面的な失業率推移のほか、人種ごとの雇用環境の変化なども慎重に見定めた」(アナリスト)とみられるが、雇用者数や失業率の改善が急速に進むなか、賃金が物価と同様、上昇に歯止めの掛からない「賃金インフレ」へ一気に突入。低下傾向だったインフレ率は反転し、伸びを強めた。


「緩やかな金融緩和の修正を目指したパウエル議長もフェーズの移り変わりを認識し、21年11月ごろに政策スタンスを変えた」(東短リサーチの加藤出氏)などFRBは総タカ派へ急旋回。米政府も、多くの国民の生活環境を揺るがしかねない物価高を踏まえて「インフレ対策」を最優先課題に掲げ、「金融引き締めの後ろ盾を得た」(証券会社幹部)。


ただ、膨らみ切ったBSのもと、政策金利の早急・大幅な引き上げは経済や金融市場、財政への副作用が甚大。大胆な行動をすぐには取れないFRBは、先々の中銀の姿勢を見据えて行動するマーケットの「織り込み」を利用。22年入り後、幹部発言などでテーパリングペースの加速や利上げ時期の前倒し、政策金利の引き上げ幅拡大などを段階的ににじませ、金利の先高観を織り込ませてきた。


〝シグナル〟生かせず


マーケットでは「市場金利を政策金利よりも先に高めて引き締め効果を強めた。かじ取りの難しい局面でうまく対応している」(三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩氏)との見方は多く、「引き締め姿勢を急速に強めている」(メガバンク幹部)とシグナルを捉える邦銀関係者も少なくなかった。


ただ、貴重な収益源の一つとして外債を積み増してきた邦銀の多くは、決算期末を挟む春の金利急騰時、長期・超長期債の売却による金利リスクの大幅な圧縮など本腰を入れた行動を取れず、評価益の大幅減や含み損を抱えた。


大手行5グループの22年3月期決算は債券などの市場売買利益が前年同期比37%減の約1兆円となり、地域銀でも有価証券評価額が前年同期比1兆5000億円程度目減り。純利益対比で多大な含み損を抱える先も散見された。三井住友フィナンシャルグループの太田純社長は「銀行間取引の担保としても米国債を持たざるをえなく、含み損の増加を(前提に)考えないといけない」と、ロスカットを含む機動的な運用の必要性を強調する。


世界的な大規模緩和下、海外の金融引き締めで「余波」以上の打撃を受けた邦銀の有価証券運用は、大きな転機を迎えている。

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