【推薦図書】「地域ごちゃまぜ病院をつくろう」(武久洋三著)
2025.10.31 04:30 
                            【推薦者】金融庁総合政策局審議官・八幡道典 氏
先駆者による新たな提案
厚生労働省の審議会委員などを歴任され、制度の立案にも深く関わってきた著者。同時に、現場の経営者として自らが先んじて実践し、いわばそれをモデルとして制度改正に繋(つな)げてきた。
本書の前半では、そうした稀有(けう)な立場を踏まえ、これまでの医療・介護制度の変遷を振り返る。役所の解説本でも、こうした事実関係は分かるのだが、その評価はわかりづらい。その点、本書は良い点は褒め、悪い点には容赦がない。制度の失敗も赤裸々に描かれる。「なんちゃって急性期病院」がなぜ乱立したか。それを生み出したのは厚労省の診療報酬の失敗だ。一方で、それを是正する厚労省の努力もきちんと書かれており、公平でもある。
本書の後半は題名の提言となっている。人口減少の下、特に過疎地では制度を細分化しても仕方がない。既存の施設を生かし、患者第一の提供体制をつくるべきだ。この点、制度を熟知し、かつ、現場の実態にも詳しい著者の言葉には多いに説得力がある。
本紙の購読者も、遠くない将来、高齢者施設のお世話にもなろう。その時、ユーザーとしてどういう施設が望ましいか。自分事(じぶんごと)として考えるためにも、これまでの制度の変遷と今後のあるべき姿について一考されるのは如何(いかが)。
(中央公論美術出版 税込み1870円)
