【眼光紙背】 見過ごせぬ〝対岸の火事〟

2025.10.16 04:30
眼光紙背
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世界の市場に多大な影響を与え、1世紀超の歴史をもつ米連邦準備制度理事会(FRB)。その透明性に尽力したトップは誰かと問われれば、第14代議長のベン・バーナンキ氏の名を挙げたい。


「一層の情報提供が重要と判断した」―。2011年4月27日、筆者も取材した史上初の議長定例記者会見で、バーナンキ氏はそう強調した。自身はブログやツイッター(現X)でも情報発信し、連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが講演などで自由に見解を語ることも容認した。その姿勢は、中央銀行に認められる独立性の重さへの自覚の裏返しであったと思う。


バーナンキ氏をはじめ歴代のFRB議長らが9月25日、トランプ米大統領によるクックFRB理事の解任通知を退けるよう求めた意見書を連邦最高裁に提出した。「FRBを政治的影響にさらし、金融政策を危うくする」と懸念している。


大統領は、辞任した別の理事の後任に大統領経済諮問委員会のトップを指名した。政府高官のFRB理事兼務は極めて異例。トランプ氏はパウエル現議長に対して、「利下げしろ」と圧力もかけ続けている。


FRBウオッチャーの端くれとして、大統領は常軌を逸しているというほかない。金融政策が政治的影響を離れ経済の長期的安定を目指し運営されるべきだとする思想は、金融市場の基本原則だ。少なくとも先進国、とりわけ世界の中銀の〝総本山〟といえるFRBで目に余る政治介入が頻発する事態はゆゆしきことである。


中銀にも外部のガバナンスをある程度きかすべく、政府や議会の関与は否定されるものでない。FRB理事を大統領が指名し、上院が承認するのもその文脈にある。それでも、超えてはならぬ一線は存在しよう。


市場にも〝歪み〟が生じている。歴史的な高騰局面が続いている金相場だ。従来指摘されている地政学的リスクの高まりに加え、トランプ政権の介入でFRBの独立性への懸念が強まりドル離れを招いていることも、金投資を後押ししているとの見方が出ている。


乱暴な連想で恐縮だが、日本で政府が日本銀行の政策委員人事を放縦となし、日銀総裁を威圧する事態が許されるだろうか。折しも自民党で新総裁が誕生し、政権と日銀の間合いに関心が集まっている。中銀の独立性ではより成熟した面があると信じつつ、〝対岸の火事〟を注視したい。


(編集委員 柿内公輔)



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