【推薦図書】「歌舞伎のことば」(渡辺保著)

2025.10.03 04:30
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【推薦者】みずほフィナンシャルグループ取締役・平間久顕 氏


知らざあ言って聞かせやしょう


家と血と芸が織りなす波瀾(はらん)万丈の歌舞伎の世界を描いた映画「国宝」が興行収入100億円を超えた。折しもこの春には、八代目尾上菊五郎の襲名披露があり、ティファニーブルーの祝幕に彩られた興行は連日大盛況となった。それにつけても、歌舞伎役者は究極の事業承継ビジネスである。会社の場合、当主は象徴的な存在で才覚のある番頭が経営を支えることもできるが、役者の場合、当人が舞台に立って演じることでのみ評価される。菊五郎という名跡が300年近く受け継がれてきた裏側には、語り尽くせないドラマがあったことだろう。


本書は、演劇評論家の重鎮である著者が、歌舞伎に関する42のキーワードを解説しながら、役者や舞台、歴史や思想について語ったエッセー集である。随所に挿入された舞台写真と名優たちの芸談とともに、歌舞伎の世界に引き込まれる。


花道とは、「物語の世界と現実をつなぐ接点であり、役者の『花』の場でもある」という。人間国宝の坂東玉三郎が最近演じた「火の鳥」はさながら新作オペラのようだった。伝統と格式を守りながら、先端のはやりもとり入れていく。花道は、最後を飾るというよりも、その先は明日へと続く終わりなき芸の道なのである。


(大修館書店 税込み2200円)

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