【推薦図書】「税金の世界史」(ドミニク・フリスビー著、中島由華訳)

2025.09.12 04:30
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【推薦者】東短リサーチ社長・加藤出 氏


税金は世界を動かす


本書を読むと税金が世界史に大きな影響を及ぼしてきたことが痛感される。イエス・キリストがベツレヘムの馬小屋で生まれたのは、納税の関係でマリアが同地を訪れる必要があったからだった。中国でも欧州でも平民が名前に姓を持つようになったのは、政府が徴税をやりやすくするためだった。


1600年代終盤のイギリスで、家の窓の数に課税する「窓税」が導入された。これにより窓をれんがでふさぐ家や、極力窓を作らない新築家屋が増えるなど、同国の住宅建築様式は長い間奇妙な状態が続いた。


アメリカの南北戦争の主因は奴隷制度の対立ではなく、欧州からの輸入品への関税に南部の州が猛反発したことにあった。ナチス・ドイツの財政は戦費膨張とともに悪化した。人気が落ちるのを警戒してかヒトラーは中低所得層への増税は抑制し、代わりにユダヤ人に対してホロコーストを開始、彼らの預金・財産を没収して政府の歳入にあてた。


ところで日本の財政は高齢化・人口減少の進行により先行き非常に厳しくなっていくと予想される。そのなかで目先の痛みを回避することを主眼とする税制を選んでいくと将来の日本の文化、経済、政治がゆがむ恐れもあるのではないか、と本書を読みながら考えさせられた。


(河出書房新社、税込み2585円)

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