【推薦図書】「戦後日本経済史」(野口悠紀雄著)
2025.09.05 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野早苗 氏
歴史振り返り未来描く
終戦から80年を迎えた。戦後、日本経済は奇跡的な成長を遂げたが、1990年代中盤以降、成長が止まってしまった。本書は45年3月の東京大空襲から現在までの日本経済の歩みを、野口氏ご自身の実体験も交えて語っている。考察は多岐にわたるが、説明は明快で、核心を得ている。
失われた30年の原因はバブル崩壊だとよく言われる。しかし、本書では、製造業の弱体化、すなわち中国工業化とIT革命への不適応が真の原因だと指摘。中国・アジアの成長への対応として取るべき政策は付加価値を高めるための構造改革だったが、円安誘導に終始した。アベノミクスでも大規模金融緩和への依存が大きく、成長戦略で実現した成果は少ない。巨大IT企業の成長で、製造業の停滞からの飛躍を遂げた米国との格差も拡大した。野口氏は、日本の製造業の衰退は垂直統合に驀進(ばくしん)したことであり、自動車産業もEV(電気自動車)化が進む今後は、電機産業と同じ轍(てつ)を踏むのではないかと危惧する。
昨今、物価高が進んでいる。実質賃金上昇のために名目賃金の引き上げが求められているが、生産性向上なき賃上げはさらなる物価高をもたらす。高齢化やインフラの老朽化など、課題は山積だが、新しい可能性を探求するために過去を振り返る意義は大きい。
(東洋経済新報社、税込み2200円)