【推薦図書】「行為主体性の進化」(マイケル・トマセロ著、高橋洋訳)

2025.08.08 04:30
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【推薦者】日本銀行総務人事局審議役・飯島浩太 氏
人間と動物を分かつもの

仕事柄、経済社会関係の読み物が多くなりがちだが、時には全く違うジャンルの本を読みたくなる。本書はそうした気持ちで手に取った一冊だ。人間は、高度な意思決定のための心理メカニズムを持つ。認知科学の第一人者である著者が解明を試みるのは、このメカニズムがどのように進化してきたかだ。


著者の仮説は、①目標と状況に応じて行動の実行・中止を決定する「操作層」だけの爬虫(はちゅう)類②操作層の行動を認知的に制御する「実行層」を備えた哺乳類③実行層の意思決定を評価する「反省層」を持つ類人猿④反省層を持つ個体が集まり、社会的に共有された(個体とは別の)行為主体をも形成するに至った人類、という形で進化してきたというものだ。


これに基づけば、人間のユニークさは、個体としてだけでなく、集団としての行為主体性をも観念できる認知メカニズムを有する点にある。さらに、本書では、こうした特性があるからこそ、人間は主観的な信念と客観的な事実を区別でき、また、客観性を社会制度へ拡張することで、貨幣といった制度的現実を生み出すこともできる、という議論もあって興味深い。


決して取っつきやすい本ではないが、読めば必ずや知的好奇心が刺激される。


(白揚社 税込み3410円)

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