【眼光紙背】 日本の格差とピケティ氏
2025.07.31 04:30
懐かしさについ目が留まったと言えば、世界的ベストセラーで一大ブームを巻き起こしたご当人に失礼か。仏経済学者のトマ・ピケティ氏が先般、朝日新聞の取材に応じていた。同氏の〝動静〟を国内メディアが伝えるのは久しぶりだろう。
2013年の「21世紀の資本」刊行時はいかにも新進気鋭の学徒のたたずまいだったピケティ氏も50代半ば。容貌も少しふっくらとした印象だが、鋭い舌鋒(ぜっぽう)は健在のようだ。米トランプ政権の関税政策を「ばかげている」と切り捨て、長年の研究テーマである格差問題を米国で悪化させると懸念していた。
資本主義がはらむ格差拡大をデータで解き明かした同書は日本でも飛ぶように売れ、筆者も700ページを超える大著を恐る恐る手に取ったものだ。ただ、ふと疑問もわいた。足元の日本社会もまさに格差がクローズアップされている。なのに、ピケティ氏の主張は忘れ去られた感さえある。なぜだろうか。
思うに、日本の格差問題は独特な構図がある。ピケティ氏は先進国で高所得層が増えた点に着目したが、日本の格差問題はむしろ貧困層の拡大が顕著と言えよう。かつて「一億総中流社会」の核を形成していた分厚い中間層が衰退。資産が豊かな高齢者もいる半面、貧困高齢者との差が広がっている。
世代間格差も大きい。年金制度などの恩恵を受けてきた高齢者に、若年層は不満を募らせる。ヤングケアラーにみられる子どもの貧困や教育機会の不平等も見逃せない。実は、ピケティ氏も同書で明示していないものの、日本は帰属階層間より世代間の格差が深刻との発言をしている。
ピケティ氏は格差問題の処方箋として所得再分配を説いた。一方で、付加価値税の高い欧州などと異なり、日本は消費税の歴史が浅く社会保障の財源にも悩む。解は容易に見つからないが、財政の逼迫(ひっぱく)で打つ手は限られるなか、格差を未然に防ぐ雇用・教育の支援も必要となろう。
(編集委員 柿内公輔)
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