【推薦図書】「『自由』上・下」(アンゲラ・メルケル著・長谷川圭、柴田さとみ訳)

2025.07.25 04:30
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【推薦者】金融庁総合政策局審議官・八幡道典
簡潔な題名に込められた重い意味

約20年前、ドイツで勤務していた。その最後の年に女性初の首相に選ばれたのがメルケル氏。当時、私は短命に終わると予測した。不明を恥じるほかない。その後16年間にわたり欧州はもとより世界のリーダーの1人として激動の時代を牽引(けんいん)した。


旧東ドイツ出身。本書ではその幼少期も丁寧に描かれる。どこか暗い監視社会。抑圧的な独裁体制の下、時には身近な人の裏切りも経験する。政治とは無縁の科学者を目指すなかで東西統合に遭遇。喜びもつかの間、旧西側に抱く劣等感。そんななか、時のコール首相に見いだされ、政治家として頭角を現していく。


おおよその生い立ちは知っていたが、東独出身でかつ女性であることが、いわば下駄(げた)をはき、たまたま首相の座にたどり着いたものと思っていた。しかしそれも大きな勘違いだった。本書で赤裸々に語られる彼女の人生経験は、想像を超える迫力がある。それが、強い意志と強靭(きょうじん)な精神力をもつ政治家を作り上げたのだろう。


自由という題名の意味は、その簡潔さに比して極めて重い。さほど遠い昔ではないドイツ統合の歴史を振り返りつつ、決して当たり前ではない「自由」の意味について、改めて考えさせられる自叙伝である。


(KADOKAWA 税込み2750円)

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