【眼光紙背】 伝説の詐欺師との戦い
2025.07.17 04:30
知人が電話口で訴えてきた不安に胸騒ぎがした。不動産会社が最近、サブリース賃料を滞納し始めたという。問い合わせても要領を得ず、「大丈夫だから」の一点張り。「ポンジスキームかもしれない。消費者センターに相談か契約解除を」。そう声を掛けた。
投資家への配当を別の投資家からまかないつつ、自転車操業状態から結局資金を持ち逃げする。二十世紀初頭に米国で暗躍した詐欺師チャールズ・ポンジに由来する手法だ。
「世の中の投資詐欺の9割はこの手口と言ってもいい」――。今年放映された顧客の財産を守るプライベートバンカーを描いたテレビドラマで、唐沢寿明さんが演じる主人公もそう強調していた。
いわば投資詐欺の王道なわけだが、厄介なのは時代の変遷とともに次々と新たな商法が登場する点。昨年だと、高級腕時計のシェアリングサービスの会社が突然解散した事件が耳目を集めた。
それにしても、なぜポンジスキームに人は飛びついてしまうのか。それは人間心理の”陥穽(かんせい)”を巧みに突くからだ。「初期の成功体験」もそう。最初のうち実際にリターンが得られることで、ずっと利益が出るという誤った信念が強化される。異変に気付いても、失った分を取り戻すためにもう少し続けようと考えてしまう。この心理は「サンクコスト効果」と呼ばれる。
ポンジスキームで今後懸念される領域として、先ほど挙げた不動産投資のほか、暗号資産関連が危うい。すでに海外では巨額詐欺がいくつも摘発されており、日本でも時間の問題かもしれない。
被害防止にも時代に即した金融教育やツールは有効とみる。投資学習アプリを手掛けるグリーンモンスターは、ポンジスキームを含めた手口を学べる「投資詐欺体験チャット」を提供している。
ポンジスキームの撲滅は容易ではない。それでも粘り強く戦おう。伝説の詐欺師に草葉の陰で高笑いをさせぬためにも。
(編集委員 柿内公輔)
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