【眼光紙背】 日本版SWFの夢と壁
2025.09.18 04:30
世界経済で政府系ファンド(SWF)の存在感が増している。統一的定義はないが、政府によって保有され、主に天然資源や財政余剰を原資に長期運用されるのが特徴だ。
世界で90以上のSWFが存在するとされ、米金融情報会社グローバルSWFによると、2024年の投資件数は前年から1割増の358件だった。産油国が多い中東で、アラブ首長国連邦やサウジアラビアを拠点とするSWFに勢いがある。ノルウェーやシンガポールもSWF大国で知られる。インベスコ・アセット・マネジメントの調査によれば、不安定な世界情勢を乗り切るため各国のSWFがアクティブ運用に目を向けているという。
SWFを持たない日本でも目を引く動きがあった。与党の公明党が参院選でSWF創設を公約に掲げ、政策実現の財源にしようと訴えたのだ。実はSWFになぞらえられる組織もある。公的年金を運用する資産250兆円に及ぶ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。同党は「運用能力は世界トップクラスの金融機関に匹敵する」とし、そのノウハウを活用しようと提言した。
だが、現実にはハードルが高い。そもそもGPIFは年金受給者のための存在だ。さりとて資源に恵まれず、先進国最悪水準の財政では、巨大なファンドを新たに手掛ける余力が乏しい。なんとか創設にこぎつけても、管理運営に政治的リスクがつきまとうだろう。過去にも外貨準備高を活用したSWF構想が一時盛り上がったことがあるが、為替への影響や経済安全保障の懸念から立ち消えた。
今回の公明党案にも、今のところ他党をはじめ目立つ反響は見られない。米国でもトランプ大統領がSWF創設を模索したものの、やはり財政難などで棚上げになった。
少子高齢化と低成長で国力が縮むなか、日本版SWFには夢がある。ただ、環境が整わぬ限り、現状は地道な論点整理を進めるしかないだろう。
(編集委員 柿内公輔)
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