【眼光紙背】 「令和の米騒動」と農協

2025.06.05 04:30
眼光紙背
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薄れかけた記憶がよみがえる。1993年の「平成の米騒動」。記録的冷夏で政府はタイなどから緊急輸入したが、なじみの薄い海外米は疎まれ、4割が売れ残った。減反政策も背景に指摘された。


今また起きた「令和の米騒動」では、農水相が舌禍で辞職。農政は再び批判にさらされ、農業協同組合にも矛先が向かっている。備蓄米をめぐる混乱の一端は農協にもあり、機動的な対応が取れなかった責めは負うべきだろう。米騒動と直接関係ないものの、農林中央金庫の巨額運用損もJAグループの信用失墜に拍車をかけた。


だが、元農水官僚や元全国農業協同組合中央会(JA全中)幹部らが唱道する農協の解体・不要論まで飛び交うに至っては、いささか論議が飛躍し過ぎていまいか。


2015年の農協法改正で、監査など強固な権限を有した中央会制度が廃止されてからまだ10年。農協改革はその効果と検証を踏まえる途上にある。


農協は信用(銀行)、共済(保険)、経済(農業関連)など多様な事業を手掛け、コメのほか野菜、果樹、花など扱う品種も多岐にわたる。それらを総合的にマネジメントする組織の必要性は、農協批判に回る専門家も認める向きが多い。


とりわけ零細・小規模の農家にとっては、仕入れ・生産から販売、農業機械の調達などの一手に手掛けにくい業務、さらに営農指導などを農協が支えている側面がある。


また、農協解体となれば、150兆円ともいわれる〝JAマネー〟が外資をはじめ草刈り場と化さない保証はない。構図が似通う郵政民営化をめぐる混迷が、その不安を否が応でも増している。


むろん、農協自ら反省に立ち、改革を進めるべきは論をまたない。組織・事業の効率化、採算性改善、産業界との連携――など課題は多い。


今、農協が問われるべきは騒動に乗じた切り捨てではなく、農政の持続的展望に立ち、再生・改革への道筋を実直に追うことだ。


(編集委員 柿内公輔)



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