【推薦図書】『貧困と脳 「働かない」のではなく「働けない」』(鈴木大介著)
2025.05.30 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
貧困のリスクは誰にでもある
著者は若者の貧困問題に関する書籍を数多く執筆されてきたが、取材対象の若者には時間にルーズで、行動を起こさない者も少なくない。なぜ若者たちは自ら破滅に向かおうとするのか。著者は10年前に脳梗塞を患われたが、脳の機能障害が引き起こす生き地獄を当事者と第三者の視点から語れる稀有(けう)な人物でもある。後遺症を抱えながらも深層に迫ろうとする姿勢には頭が下がる。
先天的なものであれ後天的なものであれ、脳が不自由になると想像を絶する困難に陥る。しかし、身体障がいとは異なり、目には見えない障がいのため、周囲にはわかりにくい。貧困を自己責任で片付けることも多いが、著者は、不自由な脳で生きる結果として高確率で陥る二次障害が貧困であると主張する。また、脳の特性ゆえに、支援をまさに必要とする彼らに支援が届かない現状がある。
脳が不自由になり働けなくなるリスクは誰にでもある。ハラスメントや離婚も不自由な脳の原因になり得る。人ごとではない。
周りの無理解は当事者を苦しめることになるが、不安は脳の情報処理的リソースをさらに奪う。逆に、不安を軽減できれば、脳は驚くほどの力を発揮する。当事者が水面下で行っている必死の自助努力に敬意を払うべきだ。
(幻冬舎新書、税込み1056円)
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