【特集】胎動するデジタル通貨 新たなマネーへ利活用期待
2022.01.14 04:50次世代の社会インフラとして可能性を秘めるデジタル通貨。先行する一部の新興国では中央銀行デジタル通貨(CBDC)の利用が開始され、中国では2月の北京オリンピック開催を控え、デジタル人民元の準備を進める。国内では日本銀行が4月から第2段階の概念実証を開始予定。一方、民間主導で円に連動したデジタル通貨の開発・導入に向けた動きが目立つ。新たなマネーとなるか。未来像を展望する。
(ユースケースⅠ) B2C 地域通貨
地方創生の一環で特定地域のお店でスマートフォンを使って決済ができるデジタル地域通貨が注目されている。人口3000人超の福島県磐梯町では2021年7月にデジタル商品券を発行した。1世帯あたり5000円単位で最大10万円分購入ができ、販売金額に対して25%のプレミアムを付与。紙の商品券に比べ、1円単位で利用ができる。
同町が採用したのはデジタルプラットフォーマー(DP、東京都新宿区)のデジタル通貨の発行プラットホーム「LITA(リタ)」。カンボジアでデジタル通貨の開発実績を持つソラミツ(東京都渋谷区)のブロックチェーンを利用。DPは21年度中に地域銀行向けデジタル通貨プラットホームの開発を終え、業務提携する東海東京フィナンシャル・ホールディングスが連携する地域銀に展開する計画。当初は前払式支払手段の枠組みで運用を開始し、将来的には銀行預金のデジタル化までを視野に入れる。
(ユースケースⅡ) B2B 法人決済
デジタル通貨は法人決済の領域への応用も期待されている。支払企業が銀行振り込みの代わりに、EDI(電子データ取引)情報を付加したデジタル通貨で検収と同時に自動支払いを行うことで経理処理の効率化と決済コストの低下につながる(図1)。金融機関側はリアルタイムの取引データを融資に生かすことができる。
ソラミツの宮沢和正社長は、日本におけるデジタル通貨のB2Bの市場規模はB2Cの4倍にあたる約1100兆円で、「ブロックチェーンによって金流と商流を一致させるとものすごいメリットがある」と強調する。サプライチェーンを持つ大手企業での採用に向けて検討段階にある。
(ユースケースⅢ) P2P 電力取引
22年度中に円建てデジタル通貨「DCJPY(仮称)」の実用化を目指すデジタル通貨フォーラムは、電力取引への活用に向けた実証実験を進める。ディーカレット(東京都千代田区)が事務局を務め、メガバンクをはじめ幅広い業種から70社以上が参画。小売り・流通、地域通貨など10の分科会で利用シーンに応じた検討を行っている。
電力取引分科会では、太陽光などで発電を行う個人や企業と買い手をマッチングする電力Peer to Peer(P2P)取引プラットフォームで、売買の対価の支払いにデジタル通貨の活用を想定する(図2)。取引データ活用したグリーンファイナンスなども検討。
脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの普及がカギとなるなか、デジタル通貨フォーラム座長でフューチャーの山岡浩巳取締役は「電力の取引に関する情報やデータをマネーと連関させる形でより有効に活用していく非常に象徴的な取り組み」と期待する。
注視されるCBDC
新興国では金融包摂や決済インフラの整備を目的にCBDC導入・検討が進む。一方、日本をはじめ先進国の場合、日本総合研究所の河村小百合主席研究員は「決済の安全性の向上とコスト低減」をメリットに挙げる。
フィンテック企業のFinatextホールディングスの林良太CEOは、キャッシュレス決済が発達する日本において、顧客目線ではデジタル通貨の導入は「喫緊ではない」とみる。しかし、林CEOは「新しい技術にトライすることに意味がある」と話し、デジタル通貨の動向を注視する。