【眼光紙背】医療・福祉 底上げを
2025.05.01 04:30
今年の大企業の春闘は昨年を上回る賃上げとなった。現在は中小企業で交渉が続いているが、約8割が賃上げとの調査もある。
そのようななかで出遅れが目立つのが医療・福祉業界だ。昨春の賃上げ状況も平均6876円で全産業の半分だった。今年も病院などで「ゼロ回答」が続出。日本医療労働組合連合会(医労連)などは4月9日、医療機関や介護事業所で働くケア労働者の賃上げと人員配置増を求める要請書を首相に提出した。
筆者はかつて一般紙でコロナ禍の「医療崩壊」を取材した。その実態は悲惨そのもので、やっと傷跡が癒えつつあるのが現在地といえる。そうした背景もあって、ようやく昨年度から医師にも時間外労働の上限規制がされたものの、働き方改革が現場に浸透しているとはとても言いがたい。
実は先日来体調を崩して入院もし、このコラムもお休みしていたのだが、医療関係者を〝再取材〟する機会にもなった。高給取りのイメージとは裏腹に、人員難や当直を含む長時間勤務と救急対応のストレスなど、相変わらずの過酷な現状を改めて感じた。
医療・福祉業界の実態を特集した民放の先日のテレビ番組でも、賃上げが難しい分、少しでも現場の負担を減らそうと、介護施設でシフトを細かく調整するなどの取り組みが紹介されていた。
医労連は要請書で、全産業的には6%前後の賃上げ回答が示されるなか、「ケア労働者は2%にもならない定期昇給のみで、気力もやりがいも無くし、医療・介護現場を離れていく労働者も増えている」と指弾している。
「きついけれど、命を預かる仕事なので絶対に気を抜けない」。今回も耳にした医療関係者の言葉は重い。
国民生活に欠かせない医療や介護を守る責任は第一に国、すなわち石破政権にある。そのうえで、事業支援をはじめとして医療・福祉業界と取引の深い金融機関も手を差し伸べることはできよう。
(編集委員 柿内公輔)
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