【推薦図書】『ドーパミン中毒』(アンナ・レンブケ著・恩蔵絢子訳)
2025.03.14 04:30
【推薦者】住友生命保険代表執行役専務・栄森 剛志氏
快楽と苦痛のシーソー
現代社会には依存症があふれている。ギャンブル依存症に陥ったメジャーリーガーの通訳、スマートフォンを手放せないSNS依存症の若者、タバコや酒をやめられない中高年など、自分をコントロールできない人が多い。
これらの原因はドーパミンにある。ドーパミンは進化の過程で獲得した原始的で強力な仕組みだ。これによりわれわれの祖先は生存競争を勝ち抜き、子孫を残すことができた。しかし、その強力な仕組みが現代社会においてミスマッチを起こしている。
著者はドーパミンの仕組みを「快楽と苦痛のシーソー」と表現する。「いいことがあれば必ず悪いことがやってくる」という経験則のとおり、シーソーが快楽側へ傾くと自己調整メカニズムで苦痛側に引き戻される。そして苦痛から逃れるためにさらなる刺激を求め、依存症へと進行する。
本書で紹介される他者の赤裸々な経験は、時に読む者の心を抉(えぐ)るが、それ故に依存症の現実と対策が強く心に刻まれる。ウェルビーイング(心身の健康と幸福)の実現には「快楽と苦痛のシーソー」の理解が欠かせない。
(新潮新書、税込み1210円)