【推薦図書】『経済価値ベースのソルベンシー規制 生保経営大転換を読む』(植村信保著)
2025.03.07 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
新規制で生保会社はどう変わるか
経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)の施行が予定されている。本書の目的は新規制の詳細の解説ではなく、新規制の導入が生保会社の経営に及ぼす影響や新規制の課題に主眼を置いている。
ESRでは資産と負債を時価で評価するため、生保会社の健全性をより適切に表せる。また、新規制では、監督介入の基準となるソルベンシー比率の算出(第1の柱)だけではなく、生保会社の内部管理の検証、高度化への利用(第2の柱)や、外部のステークホルダーとの対話を通じた生保会社への規律付け(第3の柱)も重視されている。
1997年以降の中堅生保会社の破綻事例も検証されている。当時はまだ資産・負債の総合管理(ALM)が定着していなかったが、アクチュアリーや財務部門は警鐘を鳴らしていた。しかし、経営に生かされることはなかった。経済価値ベースの損益では経営責任の所在がより明確になるため、生保会社のガバナンスのあり方が変容する可能性がある。
課題もある。第2、第3の柱を考えるうえで情報公開は重要だが、生保の情報はわかりにくく、銀行よりも報道されるニュースが少ない。新規制を契機に、生保会社の情報の有益性を理解してもらえるようメディアに働きかけることが重要と筆者は述べている。
(日本経済新聞出版、税込み3520円)