【実像】地域金融の運用戦略(下)~外部リソースを生かす~ 知見やノウハウ吸収し活路

2021.12.23 04:53
提携・連携 有価証券運用 実像
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有価証券運用のポートフォリオを多様化する地域金融機関にとって、運用部門の人材確保やリスク管理の高度化は欠かせない。自前での運用業務が限界に近づくなか、新たな潮流となりつつあるのが外部リソースの有効活用だ。


流入が続く私募投信


2020年に100兆円を超えた私募投資信託の純資産総額。11月末には111兆円と過去最高を更新し、過去10年間で約4倍に増えた(グラフ)。資金流入の主役は地域金融機関だ。債券利回りの低下に加え、19年9月期から投信解約損益の開示が義務化され、流入ペースは鈍化したものの、私募投信マーケットへの資金流入額は年間5兆円台で底堅く推移している。


モーニングスター子会社の中間持ち株会社SBIアセットマネジメント・グループは運用受託社数が100社を超え、地域銀行がその6割を占める。専門的な知見を有する資産運用会社への委託ニーズは強く、「地域金融機関の受託資産拡大のポテンシャルは大きい」(モーニングスターの朝倉智也社長)。


提携で制約をカバー


外部機関との提携も相次ぐ。有価証券運用の多様化・高度化を推進する長野銀行は、ポートフォリオに占めるバランス型ファンドや外国債券の割合が増加。国際分散投資が進むなか、同行は6月、地域銀16行が出資するオールニッポン・アセットマネジメント(ANAM、東京都中央区)と投資助言・リスク管理サービス契約を締結した。


長野銀の山下潤執行役員・市場運用部長は「単独ではこれからの高度化、多様化を賄いきれない」と話し、人員面など制約があるなか、同行が主体的に有価証券運用を行うために外部リソースの活用に踏み切った。


定期的な運用ミーティングに加え、ANAMが提供する「有価証券ダッシュボード」を生かし、リスク管理の高度化を図っている。ポートフォリオ内の運用商品を円金利や米金利などリスクファクターごとに分析・シミュレーションが可能。ANAMの永野竜樹社長は「ポートフォリオ全体でリスクファクターがどういう状況にあるかを見る必要がある」と強調する。


運用プロセスの整備


富山銀行は自前での運用には限界があるなかで指南役を外部に求めた。5月に独立系の日本資産運用基盤グループ(JAMP、東京都中央区)とアドバイザリー契約を結び、約1300億円の有価証券の運用を外部委託した。


中沖雄頭取は基本的なポートフォリオのサイズや運用方針のもとで中期的にしっかり作り込み、「含み益や緊急時の流動性運用につながるようにすることが、当行のようなサイズの地銀にとっては一番良いやり方」と話す。


JAMPは自社の運用商品を持たず、中立的な立場から地域金融機関の有価証券運用事業を支援する。トップからボトムまでの事業運営プロセスの整合性を重視し、現状の問題整理を行い、改善計画を提案。計画の実行まで伴走支援する。金融機関が外部に運用を丸投げする形のアウトソースではなく、JAMPの大原啓一社長は「経営のスタッフとして入り込む」姿勢を重視する。


あおぞら銀行は20年11月に地域金融機関の経営課題を解決する「地域金融パートナーバンク・タスクフォース」を設置し、支援メニューの一つに有価証券運用・リスク管理高度化支援を掲げる。地域銀、信用金庫、農業協同組合などにソリューションを提供。栃木銀行は4月にあおぞら銀と有価証券運用管理態勢の高度化支援について合意し、専門スタッフによる定期的な駐在やオンライン会議による助言を受ける。


持続的な運用を可能とする組織作りに向けて、あおぞら銀の森田智弘金融法人・地域法人営業副本部長は「(運用の)プロセスを根付かせる」視点に重きを置く。


委託先を選ぶ目養う


運用ポートフォリオの再構築で求められるのは資産規模や人材、運用方針に適した体制作りだ。自前の運用が難しければ、プロを選ぶ目を養うことも重要になる。


マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは運用の外部委託について「高度な運用を託すのであれば自分たちも理解を深めなければならない」と指摘する。外部頼みではなく、運用のフレームワークにおける外部委託の位置づけを明確化することが必要となる。


広がるETF電子取引


地域金融機関で東京証券取引所が開発したETF(上場投信)電子取引ツールを活用する動きが広がり始めている。東証は2月にオンラインで世界のマーケットメーカーにETFの価格提示依頼ができるプラットフォーム「CONNEQTOR(コネクター)」のサービスを開始し、地域銀や信金など60機関超が採用。11月には累計売買代金が1千億円を超えた。売買代金ベースでは外国株・外国債券型ETFが約8割を占めている。



東証が開発したコネクターのデモ画面
東証が開発したコネクターのデモ画面

電話による引き合いを自動化し、立会内取引と比べ有利な価格での約定を可能にしている。初期・月額費用は無料。利用が限定的だった国内の機関投資家の電子取引の参入障壁を下げている。


ETFは私募投信に比べてシンプルでコストも安く、活用の幅も広い。12月にはしんきん証券が機関投資家に対してコネクターの接続を提供する証券会社として参加。今後、信金業界で利用促進が期待される。

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