【実像】地域金融機関の運用戦略(上)~高度化を模索~ 国債「バイ&ホールド」の先へ

2021.12.17 04:13
有価証券運用 国債 実像
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超低金利環境が続くなか、国債頼みだった地域金融機関が有価証券運用の見直しを急いでいる。高利回りの国債償還に加え、足元ではコロナ禍による預金増で預貸率の低下に拍車がかかっているためだ。リターンの確保に向けて、いかに運用戦略を高度化するか。模索する地域金融機関の動向を探った。


保有国債が減少


地域金融機関が保有する有価証券残高の構成割合は近年、大きく変化している。地域銀行全体の同残高に占める国債の割合は2015年3月末に4割を超えていたが、21年3月末には2割程度と半減。一方で地方債や投資信託の割合が増加傾向にある。


信用金庫は、国債と地方債・政府保証債・公社債の占める割合が減少する一方で、21年3月末の外国証券の残高は15年3月末比で倍増。投信等の残高は3倍となり、残高全体の1割を超えた。信金関係者は「金庫の運用が曲がり角にきている。資金運用担当者個人の力量というより、(投資先の)ファンドの出来が収益に直結する」と語る。


地域金融機関の国内債デュレーションも長期化している。同期間で地域銀行は2.6年、信用金庫では1.9年それぞれ伸びた。金利リスクを取ってでも、利回りを確保しようとする動きが強まっている。


機動的売買と分散


長期保有を前提とした国債の「バイ&ホールド」はリターンが限定的。運用益の確保を目指すなかで選択肢の一つとなるのは、市場環境を踏まえた機動的な売買手法だ。


北国フィナンシャルホールディングス(FHD)は、5年程前から市場部門の位置づけ見直しに着手。「昔の(当行の)市場部門は日本国債を購入して償還まで持ち続けるバイ&ホールドが仕事のほとんどだった」(杖村修司社長)が、超長期国債の運用に加え、日本株式や欧米債券などさまざまなアセットを組み合わせたものに投資。市場動向を見極めながら機動的に売買している。


伊予銀行は市場運用で、高い流動性の確保と分散投資を重視する。株式リスクに対する分散効果の観点で前中期経営計画(18~20年度)から外債の割合を増やした。24年3月末の残高(見込み)のうち外債が4割以上を占める計画だ。


同行は米金利の上昇を見据え、6月以降米国債(為替ヘッジ付)の残高を圧縮。米長期金利のメインレンジを1.3~1.9%に置き、低下局面で売却した。資金証券部の益上仁次長は「長期金利が上昇する局面を捉えて徐々に復元していく」と話す。今後の市場リスクの一つとして、益上氏は米国と中国の対立激化などによるマーケットの混乱を挙げる。そうした地政学的リスクへの初動を含めた対応策を議論している。


奈良中央信用金庫は16年頃から本格的に国際分散投資に舵を切った。当時、債券の5、6年の償還スケジュールをみると「これから徐々に苦しくなっていくのは見えていた」(平野吉伸顧問)。このため外貨建て債券(為替ヘッジ付)の買い入れから始め、段階的に増やしていった。11月末時点で外国籍の投信などを通じて外国証券の割合が約半分を占めている。


今後、片岡徹理事は米金利が上昇した場合は「積極的に投資をしていきたい」と話し、「リスクテイクの余力がある」とみる。


帯広信用金庫は11年頃から外国債券を積極的に購入する方針を取る。保有する日本国債の満期償還分を振り向け、現状、同金庫の有価証券の約1割が米国債を中心とする外国債券。経営陣と運用部門のコミュニケーションを重視し、毎週火曜日、代表理事と資金証券部、リスク統括部による資金運用会議を開く。運用状況や今後の相場見通し、オペレーション方針などを共有している。


問われる経営姿勢


当然、過度なリターン重視はリスクも伴う。北洋銀行はリーマン・ショックを教訓に、国債、事業債など安定的な資産が中心となる「ローリスク運用」を掲げる。安田光春頭取は「特定の資産を膨らませると、いざという時に一度に売却できない、様子見もできない」と話す。一定比率を政策保有株に振り向け、期間・銘柄・リスク分散を重視。今後もこの方針を貫く。


岡三証券グローバル・リサーチ・センターの高田創理事長は「リスク管理にトップも含めて取り組んでいるか、経営姿勢が問われている。全体の資金を動かすなかで貸し出しも有価証券運用も一緒に考えなければならない」と指摘する。


リスク管理が高度化・複雑化するなか、有価証券運用を「本業」の一つと位置づけ、経営陣が主体的に関与することが一段と重要になっている。

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