列島の止まり木 脱炭素社会実現の難しさ
2025.01.10 06:00
「事業を実現することは困難であると判断し、本計画を中止することといたしました」。2024年12月16日、兵庫県姫路市は環境省が選定する「脱炭素先行地域」を辞退したとホームページで発表した。脱炭素先行地域の辞退は、24年3月に発表した奈良県三郷町に次ぐ2例目だ。いずれも資金面が課題となったことを理由としている。
30年までに民生部門の電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを目指して環境省が選定している脱炭素先行地域。22年に始まり、全国で81地域が選定されている。だが、選定辞退とはいかずとも、足取りが鈍い地域も多い。ある関係者は「環境省が公表する進捗(しんちょく)状況をみると、本当に達成できるのかと思う地域もある」と明かす。
計画が進展しにくい理由の一つが資金繰りだ。事業規模が大きく、太陽光パネルの設置などに多額の予算が必要になる。環境省から交付金として上限50億円の補助が受けられるものの、交付率は原則3分の2まで。自治体や関係する事業者は十数億円の資金を用意しなければならない。
加えて、取り組みに関する住民との合意形成などに時間がかかる。そこに円安などによる原材料価格の高騰や人件費の増加が追い打ちをかけた。実際「太陽光パネルの資材などで計画当初よりコストが増加している」(中国地区地域銀)という。
こうした背景から、ある自治体は地元金融機関に融資の相談を持ちかけ、困惑されたという。相談を持ちかけられた金融機関は「計画をほとんど知らず、いきなりで驚いた」とし、脱炭素先行地域の支援に知見を持つ中国地区の地方銀行から情報収集した。
中国地区では、脱炭素先行地域に10提案(1県、11市町村)が採択されている。うち8提案に地銀4行(山陰合同銀行、中国銀行、広島銀行、山口銀行)が共同提案者として参画。さらに、共同提案者に金融機関が入らない残り2提案(島根県邑南町・岡山県真庭市)についても、それぞれ山陰合同銀と中国銀が事業を後押しする。
ある域外の金融機関担当者は「これだけ金融機関が脱炭素に力を入れている地域も珍しい」と話す。脱炭素化に向けた取り組みにはさまざまな課題が立ちはだかるが、中国5県では地銀によるフォロー体制が充実している。
関連キーワード
おすすめ
アクセスランキング(過去1週間)
- 三井住友銀オリーブラウンジ渋谷店、開業1年で見えた「距離感」 来店者数は30倍
- 地銀4行、「AIコミュニティ」発足 ヘルプフィールと協業
- りそなHD、トップライン8000億円台へ コンサルとアプリ提供で
- 三菱UFJ銀岐阜支店、一歩踏み込み企業に提案 承継・再生支援で成果
- JトラストG、プライベートバンク事業拡充 預かり資産残高1兆円へ
- 地域銀、脱炭素連合で事業創出 鹿児島銀などが先陣
- PayPay銀、住宅ローン0.13%優遇 ソフトバンク契約者対象
- 山陰地区地域銀、スマホを預金戦略の柱へ 地元市場縮小に危機感
- 七十七銀、自己啓発促進へ制度拡充 マイレージ付与で優遇
- 民間金融機関、口座確認の対象拡大 デジ庁要請で補助金も