【眼光紙背】デジタル遺品に備えあれ
2024.12.19 04:30
年の瀬は著名人を含め訃報に接する機会が多い気がする。統計的根拠はない。けれど、過ぎ行く年とともに、自他の生涯をつい振り返る。そんな時節でもあるからだろう。
「終活」も意識する機会と言えそうで、社会問題になりつつあるのが「デジタル遺品」だ。一般に、スマホなどに残された故人のデータや、ネット契約のサービスを指す。
目に見える遺品と違い、遺族がパスワードが分からず資産を確認できなかったり、故人への請求を停止できなかったりといったトラブルが増えている。国民生活センターは11月、注意を呼びかけた。
考えさせられる点は多い。高齢者はデジタルに疎いという観念はもはや過去のもの。昨年の総務省調査では、スマホでネットを利用する人は60代で8割弱、70代でも半数に上る。デジタル遺品は今後一層増えそうだ。
ネット取引の普及でデジタル金融資産も増えている。デジタル遺品管理の専門企業GOODREIの調査によると、1000万円以上の資産を持つ40歳以上の6割がデジタル金融資産を保有しているものの、その半数以上が遺族による引き出しが困難としている。
デジタル遺品関連のサービスを行う金融機関もある。三井住友信託銀行では単身者向けの「おひとりさま信託」で、デジタル遺品の削除を請け負っている。三井住友銀行の「デジタルセーフティボックス」は、身の回りのデジタル情報を万一の際は家族も見られる状態で登録できる。
デジタル遺品について特に定めた法律はない。財産的価値を有する遺品は基本的に民法上の相続財産に含まれる一方、SNSアカウントなど財産的価値を有さないものは手続きもサービスの規約次第のようだ。今後は時代に合った法整備も求められるだろう。
ともあれ、まずは本人が生前に家族とデジタル終活についてよく話すことが肝要か。「備えあれば憂いなし」という。良い年をお迎えください。
(編集委員 柿内公輔)
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