夢育む資産形成コンサルタント【株式の評価】の解答

2024.11.22 04:30
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株式価値の評価から何がわかるか?


株価純資産倍率(PBR)1倍割れの状況問題編では、財務諸表のうち貸借対照表を使った株価の評価指標であるPBRを説明しました。東京証券取引所では、PBR1倍割れの企業の割合をフォローしていますが、2024年8月に公表された資料では、余り大きな改善をみていません。東京証券取引所の調べによると、PBR1倍割れ企業の割合は、プライム市場で2022年7月50%→24年5月43%、スタンダード市場では22年7月64%→24年5月58%と改善はしていますが、依然として高水準です。


ちなみに、自動車業界について24年3月期の有価証券報告書に記載されている株価の最高値、最安値と1株当たり純資産の比率を取ると、トヨタが1.2~2.6倍、日産が0.8~1.2倍となっています。


PERとは?


次に、損益計算書を使った株価の評価方法を見てみましょう。企業の利益のうち、株主と企業に帰属する部分である純利益に着目する方法です。株価を一株当たりの純利益で割った数字は「株価収益率(PER)」と呼ばれています。PERは株価が一株当たりの純利益の何倍の値段を付けているかを示した評価指標です。PERが高い株式は投資家が将来の利益の増加を予想して高い株価を付け、低い株式は投資家が将来の利益の減少を予想して低い株価を付けていると考えられています。この指標については、PBRの1倍のような特定の数字に意味を持たせることはできません。使い方としては、同じようなビジネスモデルの企業同士を比較して、割高か割安かを評価する方法として使われています。


例えば、自動車業界について2024年3月期の有価証券報告書に記載されている株価の最高値、最安値で計算するとトヨタの5.5~11.9倍に対し日産は4.7~7.0倍となっています。これらの数字でみる限り、トヨタの株式は日産に比べて相対的に割高であると言えます。ただし、PERは1株当たりの純利益と株価を比較しているため、赤字企業や利益の予測が難しい企業に適用することができないので、その場合にはPBRを用いることが有用です。PERの算出式を変形すると、次のような式が得られます。


株価=PER×1株当たり純利益


この式によって、株価が上昇するためには、投資家の成長期待であるPERを引き上げるか、投資家に利益を還元するための原資である1株当たり純利益を増加させることが必要であることがわかります。


配当利回り株価の割高、割安を評価するものではありませんが、株式投資を行う際に重要になってきた指標があります。それは「配当利回り」と呼ばれる指標で、企業が株主に支払う1株当たりの配当を株価で割った比率として求められます。日本の企業では、配当政策について株主に対し一定の配当を支払うという考え方から利益と連動した配当を支払うという考え方に変わってきています。


さらに、株価の低迷や低金利状況の持続等から、投資家にとって株式の配当利回りは魅力的な水準になってきていることもあって、株式投資において注目されてきています。


株式価値と株価


PBR、PER、配当利回りは、いずれも1会計期間で株価を評価しようとするものです。これに対し企業が将来株主にもたらす価値をベースに株価を評価する方法があります。「割引率」というタイトルのコラムで以前説明したように、資産の価値は、その資産を保有することによって将来得られるキャッシュフローを割引率で割り引いた現在価値の合計で表すことができます。


こうした考え方を株式という資産に適用するとどうなるでしょうか。企業が未来永劫(えいごう)続いていくと考えると、投資家が企業の株式を購入することによって将来得られるキャッシュフローは配当です。ここで、配当と割引率が一定であるという極めて大胆な仮定を置き、かつ細かい計算過程は省略して結果だけを示すと次のような関係式が得られます。


配当の現在価値の合計=配当÷割引率


ここで得られた配当の現在価値の合計は、株主が企業の株式を保有することによって将来得られると期待される価値であり、株式の理論価格と呼ばれています。このような関係式で株式の理論価格を計算するモデルが、定額配当割引モデルです。


投資家は、株式の理論価格と市場の株価を比較して、株式の売買を決定すると考えることができます。例えば、ある株式の1株当たりの配当が毎年50円で、将来の配当を現在価値に割り戻す割引率を2%とすると、この株式の配当の現在価値の合計である理論価格は2500円(=50円÷0.02)となります。従って、例えば市場の株価が2000円であれば、投資家にとって理論価格が株価を上回っていることから現在の株価は割安であると考え購入するという結論になります。


モデルの効用


モデルは、いろいろな経済変数の間の関係を理解するうえで有効です。例えば、日本ではいわゆる「失われた30年」の後、金融正常化という流れのなかで金利は上昇傾向にあります。金利が上昇すると株価にどのような影響を与えるでしょうか? 金利の上昇が予想されれば、投資家が将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く割引率も上昇します。定額配当割引モデルによれば、金利の上昇が予想されると割引率も上昇し、配当の現在価値の合計は減少するので、株価は下落することになります。


新聞紙上に「日銀総裁が金利引き上げの方向を示唆したので、株価が下落した」という記事が載ることがありますが、こうした記事の背景にあるロジックは、定額配当割引モデルのような簡単モデルを使って説明することができるのです。


解説


財務諸表上にある項目と株価の比率を取ったものは評価倍率(マルチブルズ)と呼ばれ、株価の割高・割安を評価するために使われています。これらの比率は、企業の本質的な価値を直接的に表しているわけではありませんが、企業価値の評価方法の補助指標としてわかりやすく、現在でも広く活用されています。


PER(Price to Earnings Ratio)は、株価を1株当たりの純利益で割ったものであり、この値が高ければ企業の利益に対して株価が割高で、低ければ割安となります。


PBR(Price to Book Ratio)は、株価を1株当たりの自己資本で割ったものであり、この値が1を下回ることは株価が企業の解散価値以下になることを意味します。


配当利回りは、1株当たりの配当を株価で割った比率であり、最近他の金融商品の利回りに比べて魅力的な水準になってきたことでもあって、株式投資を考えるうえで重要な指標となってきています。


正解は C


※本コーナーは、資産形成コンサルタント資格(公益社団法人日本証券アナリスト協会)テキスト・問題集をもとに編集したものです。

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