【推薦図書】『関東大震災』(吉村昭著)
2024.11.08 04:30
【推薦者】フリー特別顧問・小村 充広氏
読み継ぐべき大震災の記録
関東大震災は1923(大正12)年9月1日に発生、今年は101年目に当たる。本書は丹念な生存者への取材と膨大な文献調査に基づき、20万人の命を奪った大災害を記録小説化している。菊池寛賞受賞の名作だ。
事実ほど恐ろしいものはない。本所被服廠跡(しょうあと)では避難民を火炎と大旋風が襲い3万8千人の死者が出た。身動きできない人の山は炭化し焼けた。浅草区吉原では娼婦(しょうふ)たちが弁天池の中に逃れたが、池は娼婦で重なり合い水は湯となり490人が犠牲になった。震災からわずか3時間後に「社会主義者が朝鮮人と協力して放火している」という流言が起こり、日本全国に伝わる。朝鮮人来襲説におびえた各地の自警団は朝鮮人を見つけては虐殺した。朝鮮人来襲説は全く根拠のない流言だったことが警察の調べで明らかになる。あまりに愚かであまりにむごいことだ。
吉村昭氏はこれらの悲惨、恐怖、混乱、パニック、狂気、人間の愚かさを淡々と文字で刻み、読者の頭には壮絶な映像フィルムが回りそして止まる。
2024年は元日に能登半島地震、8月には宮崎県日向灘に地震が発生した。SNS上の流言飛語、デマは社会を混乱に陥れる。日本人なら読むべき、読み継ぐべき大震災の記録だ。
(文春文庫、税込み837円)
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