【眼光紙背】 〝置き去り〟の経済論戦

2024.10.31 04:30
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歴史と政治はかくも繰り返すのか――。1993年の衆院選。東京佐川急便事件など相次ぐ金権スキャンダルで国民の政治不信は極まり、自民党は過半数を失い宮沢政権は座礁。当時の日本新党・細川護熙代表を首相に非自民連立政権が誕生した。


やはり「政治とカネ」の問題が覆った今回の総選挙で自民党は大敗。石破茂首相は続投を表明し、本稿執筆時点で新たな政権運営の枠組みは見通せないが、政治が不安定化することは間違いない。


むろん政治改革は重要だ。ただ、政権選択の選挙に欠かせぬ政策論争、とりわけ停滞する日本経済の処方箋をめぐる議論が下火だったのは残念。〝傍証〟もある。各党が競い合う経済政策への期待から株価が上昇する「選挙は買い」のアノマリー(経験則)が、約半世紀ぶりに崩れた。


しいて言えば、国民民主党が今回躍進したのも、「手取りを増やす経済政策」を愚直に訴えたことと無縁ではない気がする。同党が主張する減税や社会保険料の軽減は財源に課題も残るものの、「経済政策をしっかり議論しないと、国民は何を選んでいいかわからない」(玉木雄一郎代表)のは正鵠(せいこく)を射ている。


もっとも、より根本的で中長期的な経済課題への対処を各党で論じてほしかった。本稿で以前取り上げた社会保障もしかり、デフレ脱却もそうだ。日本商工会議所の小林健会頭は石破政権への期待として、「30年以上続いたデフレ経済からの完全脱却」を挙げていた。


コスト高による値上げで消費も企業収益も減少する「悪いインフレ」から、賃金が物価「良いインフレ」へいかに導くか。日本銀行の金融政策も転換するなか、政治が責任をもって羅針盤を示すべきだろう。


ある政府関係筋によると、経済が苦手とされる石破首相も周辺からの指摘もあり、所信表明でデフレ脱却を最優先課題と位置付けたという。ところが、裏金問題の釈明に追われ続け、訴えは尻すぼみになってしまった。


斯(か)くなるうえは 、今後開かれる国会で真摯(しんし)な経済論戦を期待するほかない。首相は10月28日の会見で、「党派を超えて優れた方策を取り入れ、意義のある経済対策、補正予算を実施することが必要だ」と述べた。能登の災害復旧や当面の物価高対策などが念頭にあるようだが、デフレ脱却や成長戦略、社会保障など中長期的課題も先送りせず、各党と建設的な議論を進めるべきだ。


来年7月には参院選も控える。各党は、日本経済の立て直しに向けて知恵を出し合ってほしい。


(編集委員 柿内公輔)


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