【推薦図書】『人事と権力 日銀総裁ポストと中央銀行の独立』(軽部謙介著)
2024.11.01 04:30
【推薦者】東短リサーチ社長・加藤 出 氏
中銀の独立性を問い直す
日本銀行幹部の人事の舞台裏を描いた非常にスリリングな本である。インフレ率や為替レートの長期的な安定を実現するうえで中央銀行の独立性は重要だ。しかし民主主義の宿命として、政治家は次の選挙を意識して中銀に短期的な視野で景気刺激索を求める傾向がある。1998年施行の日銀法が日銀の独立性を高めたのはそれを防ぐためだが、日本ではそれが有効となっていない。
主要先進国の中銀のなかで独立性が事実上最も低いのは、残念ながら日銀だろう。本書を読むとその原因が政府の日銀に対する人事権の行使の仕方と、それにチェックが働かない政治の構造的な問題にあることが明瞭に浮かび上がってくる。特に安倍政権は2013年に黒田東彦氏を日銀総裁に選び、その後も審議委員にリフレ派を選び続けたことで、日銀政策委員会を時の権力と見事に一体化させた。
米国では米連邦準備制度理事会(FRB)理事の任期が大統領よりもはるかに長いこと、大統領がFRBについて妙な提案を行うと上院は長期的な視野でそれを拒絶することから、そういった問題は起きていない。今の円の為替レートは実質ベースで半世紀ぶりの弱さだが、円の一層の信任低下を防ぐためにも本書の問いかけに耳を傾ける必要がある。
(岩波書店、税込み2750円)