夢育む資産形成コンサルタント【パッシブ運用とアクティブ運用】の解答
2024.11.08 04:30個別株式のリターンはどのように決まる?
リターンが大きい資産はリスクも大きいという「リスクとリターンのトレードオフの関係」については、本連載#2「リスクとリターン-うまいもうけ話はない-」で紹介しましたね。
それでは、個別株式に投資する場合のリターンはどうやって決まるのでしょうか? 今から50年ほど前、こうした疑問に取り組んだ米国の経済学者ウィリアム・シャープらは、きわめてシンプルな考え方を提唱しました。
つまり個別の株式のリターンはたった二つの変数だけで決まり、
①株式市場全体の動きに影響を受けるリターンと
②個別株式の動きに影響を受けるリターンとで構成されている、という考え方です。
これは「資本資産評価モデル(CAPM)」と呼ばれるモデルで、シャープらは1990年にノーベル経済学賞を受賞しています。
たった二つの変数「ベータ」と「アルファ」は、上記①の株式市場全体の動きに影響を受けるリターンの部分は「ベータ」と呼ばれ、上記②の個別株式の動きに影響を受けるリターンの部分は「アルファ」と呼ばれています。
ベータの部分は市場全体とは言っても、すべての銘柄で共通の大きさではありません。銘柄ごとに、市場全体の動きに対する反応度合いの大きさが異なるからです。
一方、アルファというのは、個別の株式の状況がその株式のリターンに影響を与える程度を示しています。
パッシブ運用とアクティブ運用
前回、〝タダ飯〟は存在せず、おいしい状況があってもいつか必ず解消されてしまうという話がありましたね。このような状態は「効率的な市場」と呼ばれ、投資家は合理的に行動するという前提を加えて、すべての情報が市場の価格に瞬時に織り込まれる状態です。
たとえある投資家がピカイチの株式銘柄を見つけたとしても、その情報は瞬時に市場全体に伝わるので、アルファという個別株式の動きによる追加的なリターンはゼロです。こうした状況であれば、市場全体の株価の動きに連動した「パッシブ運用」という手法が有効です。
しかし実際には、投資家の行動は必ずしも合理的ではありませんし、すべての情報が瞬時に織り込まれることはほぼ不可能です。とすれば、アルファという個別株式の動きに影響を受けるリターンはゼロではなく、ピカイチの株式銘柄を見つければ追加的なリターンであるアルファはプラスになります。
このように実際の株式市場はかなり効率的だとしても、完全に効率的ではないという認識のもとで、市場全体の動きから得られるリターンに加えて、個別株式の追加的なリターンであるアルファを得ようとするのが「アクティブ運用」という手法です。投資家にとってアルファを稼ぐことは、アクティブ運用の醍醐味(だいごみ)です。
幸せな40年間は終わりを告げるか?!
問題編で見てきたとおり、この何十年かは過剰流動性と言って、資金が潤沢に供給された低金利状態が市場全体の株価を支えており、誤解を恐れずに言えば何に投資するかの選択にかかわらずある程度の投資期間があれば、パッシブ運用によってそれなりのリターンが見込めた幸せな時代でした。このためアクティブ運用の存在価値は薄れがちだったのかもしれません。
しかし、ここにきて世界的にインフレの時代が到来です。
インフレの時代では安定したアルファを生み出すことができるという調査結果もあり、これまでのパッシブ運用一辺倒のスタンスが、優秀なアクティブ運用に取って代わられる時代に入ってきているのかもしれません。
解説
投資信託の運用手法にはさまざまな形態があるが、基本的な運用手法としてパッシブ運用とアクティブ運用に大別することができる。パッシブ運用が市場全体の株価の動き(市場ベンチマーク)に連動したリターンを目指すのに対し、アクティブ運用はアルファ(市場ベンチマークを上回る超過リターン)の獲得を目指す。
パッシブ運用に対するニーズを満たすものとして、インデックス・ファンドがある。インデックス・ファンドは、あらかじめ決められた特定の指標(例えば、TOPIXや業種指数等のインデックス)に連動して動くファンドのことである。
管理が容易であり、運用コストが低い等のメリットがある。
アクティブ・ファンドは、ベンチマーク(例えば、TOPIX)を設定し、これを上回ることを目的とするファンドである。株式アナリストによる企業のファンダメンタル分析に基づいて投資対象となる株式を評価・選別するといった手法を用いることもあり、スタイルという基準で特徴付けられることが多い。一般に、アクティブ運用の方がパッシブ運用よりも運用管理費(信託報酬)の水準は高くなる。
市場アノマリーの存在によって市場の効率性が否定されるならば、アクティブ運用の有効性が高まる可能性がある。
正解は A
※本コーナーは、資産形成コンサルタント資格(公益社団法人日本証券アナリスト協会)テキスト・問題集をもとに編集したものです。