夢育む資産形成コンサルタント【インフレ】の解答
2024.10.25 04:35顧客の状況によってインフレへの耐性は異なる
インフレの時代は、すべてが悪いことばかりではありません。最近では特に若い層を中心に賃金が上昇しているなど、勤労所得者には所得増というプラスがあり、また、インフレの時代では、株式や不動産といった資産価格も上昇します。
では、インフレから、より大きなマイナスの影響を受けるのは、どんな人々でしょうか?問題編の冒頭でも紹介した通り、ずっと昔に自分が将来受け取れる金額を確定している人々や、年金が主な収入源となる世代ですね。
ただ、勤労所得者や資産家にしても、インフレでも大丈夫とは一概には言えません。どういうことでしょうか?
「名目値」と「実質値」
経済学の世界では、貨幣価値で表す指標を「名目値」、物価の変動分を除いて購買力の観点から評価する指標を「実質値」といいます。
勤労所得者の所得増という名目値ベースの上昇率が、物価上昇率を上回っている場合には実質値ベースでもプラスになります。株式や不動産といった資産価格も同様に、名目値ベースの上昇率が、物価上昇率を上回る場合には実質値ベースでプラスとなります。
要は、所得も資産も、物価上昇率を上回る上昇となっているかどうかです。
年金制度とマクロ経済スライド
年金制度には「マクロ経済スライド」と呼ばれる、物価や名目手取り賃金の変動に応じて年金額を改定する仕組みが2004年に導入されました。
24年度についてみると、物価上昇率の3.2%に対して、名目手取り賃金の伸び率は3.1%、マクロ経済スライドによる年金引き上げ率が2.7%となっています(厚生労働省資料による)。
「実質値」でみると
上記の購買力という「実質値」ベースでみると、
賃金:+3.1%-物価上昇率3.2%=-0.1%
年金:+2.7%-物価上昇率3.2%=-0.5%
賃金も年金も実質値ベースではマイナスです。年金額が引き上げられたとは言っても、物価上昇率に追いついていないので目減りしているのはもちろんのこと、勤労所得者についても所得が上昇したとはいっても、実質的には目減りしていることがわかります。
お客さまの状況にあったインフレ対策を
今みてきたように、インフレへの備えは年金世代に限らず多くの人にとって共通の課題となります。お客さまのニーズはさまざまです。20~40代といった資産形成層であれば、できるだけリターンを稼げる商品重視の提案がよいのかもしれませんが、60代以降といった資産取り崩し層であれば、インフレによる目減りに備えながらも、資産価格の変動を抑えた安定重視の提案の方がよいかもしれません。
お客さま自身も、必ずしも自分にとって何がリスクで、どういう資産運用が最適かを理解しているとは限りません。お客さまの状況をよくうかがったうえで、目指すゴールに向けてのアドバイスを行っていきましょう。
解説 「名目値と実質値」に注目しよう
基準時点の資産価格をPとし、この時点で名目値と実質値は等しいとする。
資産価格の名目値ベースの上昇率をn、実質値ベースの上昇率をr、一定期間(ここでは3 年と5 年)のインフレ率をπとすると、
一定期間後の名目値ベースの資産価格
=P×(1+n)・・・①
一定期間後の実質値ベースの資産価格
=P×(1+r)・・・②
一定期間後の実質値ベースの資産価格の名目値
=P×(1+r )×(1+π)・・・③
①と③は等しいので、
P×(1+n)=P×(1+r)×(1+π)
したがって、
(1+n)=(1+r)×(1+π)・・・④
⑴ ④において、n=0.2、π=0.1なので、
1+r=(1+0.2)÷(1+0.1)=1.2÷1.1=1.09
したがって、r=0.09(9%)
この資産の価格は、名目値ベースでは20%上昇しているが、インフレの影響を除く実質値ベースでは、9%の上昇に過ぎなかったことになる。
⑵ 300万円を預金に預けたところ利子が付いて3年後には残高が310万円に増えたということは、310÷300=1.033から、預金という資産の価格が3年間で、名目値ベースで3.3%上昇したことになる。
④によれば、
1+0.033=(1+r)×(1+0.05)となるので、
1 +r=1.033÷1.05=0.984
したがって、3年後の実質値ベースの預金残高は、
P×(1+r)=300×0.984≒295である。
この預金は、名目値ベースでは、300万円から310万円に増えているが、実質値ベースでは、295万円に減少しており、購買力は減少したことになる。
これらにより、物価の変動(インフレーション、デフレーション)は、実質値ベースでの資産の価値に影響を与えることがわかる。このように物価の変動は資産運用に当たって考慮すべき重要なポイントである。
正解は A
※本コーナーは、資産形成コンサルタント資格(公益社団法人日本証券アナリスト協会)テキスト・問題集をもとに編集したものです。