【眼光紙背】今こそ「国家百年の計」
2024.10.03 04:30かつて「消えた年金」が世間を騒がせた。取材で世話になった社会保険労務士によれば、年金問題は今も相談事の〝常連〟だそう。「複雑過ぎて皆が不安だから。こちらはおかげで仕事になるけど」と肩をすくめる。
自民党総裁に選出された石破茂氏が新政権を担う。総裁選の争点として筆者は社会保障問題に注目していた。候補乱立のせいもあったが、残念ながら論戦は活発だったとは言い難い。
令和の日本は社会の構造が根底から揺らいでいる。少子高齢化や医療・介護の負担増、働き方の多様化、外国人の増加――そのどれもが社会保障に直結し、抜本的な対応を迫られている問題だ。
とくに公的年金は改正や経過措置で「つぎはぎだらけ」(前出の社労士)。2025年以降の制度改革に向け社会保障審議会などで議論されているものの、道筋が見えない。私的年金を検討する審議会も総裁選後に延期された。
胸騒ぎはあった。年金記録の不備問題で自民党は07年の参院選で惨敗し、「いまだにトラウマ」(同党関係者)なのだ。総裁選から間髪入れず解散総選挙に打って出る石破氏や執行部にとっても、年金問題は腫れ物扱いなのかもしれない。
しかし、審議会でかなり整理された論点もある。財源などの課題は残るものの、総裁選である候補も訴えた在職老齢年金の見直しや、パートへの厚生年金拡大、遺族厚生年金の男女差解消などだ。
公的年金は、生まれてから受給を終えるまで(財政均衡期間)を約100年として設計される。まさに「国家百年の計」だ。金融機関にとっても年金は顧客のライフプランニングや資産設計、さらには従業員の福利厚生とも密接に関連する。
石破氏は会見で、「年金の不安をすぐ払拭できるとは思っていない」と語った。これは率直な胸の内だろう。ならばこそ、国政の場で、それこそこの衆院選で与野党が論議を尽くしてほしい。
(編集委員 柿内公輔)
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