夢育む資産形成コンサルタント【行動経済学】の解答

2024.10.04 04:36
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人は必ずしも合理的に行動しない


〝正解が存在しない〟と言われる世界だからこそ、金融・投資の世界では、『人は合理的に行動する』ことを前提に、すべての理論が展開されています(個々の理論については、このあとの回で徐々に紹介していきます)が、時々、えっそうかなあ? と思ったりもします。


この、『えっそうかなあ?』の答えとなるのが、『行動経済学』です。


前述の前提に沿うと、すべての人間は合理的に行動することになります。しかし、やはり人間は感情に支配される生物であって、実際の人間の行動にはバイアスがかかり、合理的な行動を取ることができないことが多々ありますよね。


先の【問題1】の選択肢A.
人は得をすることよりも「損をすることを回避したい」という気持ちを重視するため、期待値で比べると得られる金額が少なくても、確実に利益が出て損失を避けられる選択肢を選ぶ傾向がある。これを「損失回避の法則」という。


について、具体的な例で見てみましょう。


【例1】あなたなら、XとYとでは、どちらを選択しますか?



この例では、合理的判断をすれば、もらえると期待される金額(期待値)はXでもYでも同じなのですが、多くの人はYを選択するでしょう。


【例2】あなたなら、XとYとでは、どちらを選択しますか?



この例でも、合理的判断をすれば、損すると予想される金額(期待値)はXでもYでも同じなのですが、多くの人はXを選択するでしょう。


人間は利益を得られるなら、そして損失を回避できるなら、より確実な方を選ぶ。


こうした人間の行動の背景にある考え方は『プロスペクト理論』と呼ばれ、下記のようなグラフで示すことができます。なおこの理論を提唱したダニエル・カーネマンとアモス・トベルスキーはノーベル経済学賞を受賞しました。



出所:証券アナリストジャーナル2006年6月号掲載グラフをもとに日本証券アナリスト協会作成

+A円の利益を得た満足感よりも、-A円の損失を被った不満の方がより大きいのです。


大きく損して小さくしかもうけられない心理的ハードル


損することの痛みを、最初はより大きく感じます。だから、保有する株式の株価が下がったら、とても気に病んでしまい、損失を確定することが難しいのです。しかしそのあと、もっと株価が下がり続け損失が膨らんでいくと、今度は不思議とだんだん痛みを感じなくなります。痛みに慣れてしまうんですね。いわゆる、保有株式の「塩漬け」状態と呼ばれるものですが、株式投資経験者の方なら、思い当たる方もいるかもしれません。


あるいは逆に、少しもうかってきたら、このまま放っておいていつか損するくらいならば、もうけがちょっとでもいいから今のうちに利益を確定しておこう、として急いで売却してしまいがちです。しかしそうなると大きく利益を得ることは難しくなります。


非合理な人間心理を理解したうえで、ルールを決める


人間の行動は非合理であるという理解が自分のなかにあり、かつ、その非合理に打ち勝つための一定のルールを持ち合わせていれば、合理的な行動に近づくことができるでしょう。


例えば、
・買値より〇%以上下落したら損切りの売却を行う。
・移動平均線より〇%超上方に乖離(かいり)したら利益確定の売却を行う、
ただしその企業の収益が、今後も伸び続ける見込みが高ければ、さらに保有し続ける。


など、あらかじめルールを決めておくのです。


あなたが金融機関勤務で顧客対応の担当であるなら、今回のような株式市場の暴落が起こったら、お客さまが感じる痛みは相場が上昇した時よりもより大きいことを理解し、その痛みに寄り添いましょう。そのうえで、あらかじめ決めておいた投資方針と照らし合わせて、今後はお客さまの行動について、利益確定を早まることはないか、逆に損失確定が遅きに失していないかを冷静にチェックし、お客さまがより合理的な行動をとれるようにサポートしていきましょう。


こうした非合理な人間心理への理解があれば、一歩引いて落ち着いた判断が可能となり、お客さまとの長期的な信頼関係の構築に近づけます。


〝正解が存在しない〟と言われる金融・投資の世界だからこそ、こうした積み重ねで築いたお客さまとの信頼が、何よりもものをいうのです。



 


【問題1解説】 


人が必ずしも合理的には行動しないことに着目し、伝統的な理論ではうまく説明できなかった社会現象や経済行動を実証的に説明しようとする理論を「行動ファイナンス(行動経済学)」と呼ぶ。「資産形成コンサルタント」テキストでは代表的な四つの行動パターンが紹介されている。


選択肢A.について


人は得をすることよりも「損をすることを回避したい」という気持ちを重視する傾向があり、これを「損失回避の法則」という。人の意思決定には確率や期待値といった数値から想定される以上に、損失を避けようとする感情が大きく影響する。


選択肢B.について


「確実性の法則」とは、人はより「確実なものを好む」という気持ちを重視する法則である。このため、例えば、「99%成功する」より「100%成功する」の方が、受ける印象が強くなる。計算上の起こりやすさにはほぼ差がなくても、人は少しでも確実な方を選択しがちである。


選択肢C.について


今までに費やしてきた「コストや時間をもったいない」と感じ、意思決定に影響を与えることをサンクコスト効果という。今まで費やしてきたコストや時間を取り戻そうという心理が働きやすくなり、冷静で合理的な判断ができなくなってしまうことがある。


選択肢D.について


「ナッジ理論」とは、無言のプレッシャーを理論化したものであり、より良い選択を自発的に取れるようにする方法である。例えば、金融商品の申込書にデフォルトの選択肢があると、顧客がそれを標準として受け入れるようになることはその一種である。


なお、顧客が専門的なことが細かく書かれている注意事項を十分に理解せずに商品を購入するようなことがあれば、ナッジの悪用ともなりかねないことは、認識すべきである。


【正解】C


※本コーナーは、資産形成コンサルタント資格(公益社団法人日本証券アナリスト協会)テキスト・問題集をもとに編集したものです。

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