改革の旗手 山崎 徹・山陰合同銀行頭取 対話から描く成長ストーリー
2024.09.13 04:50
本店を構えるのは全国で2番目に人口が少ない島根県。隣県の全国一人口が少ない鳥取県を合わせた2県がマザーマーケットだ。少子高齢化が進む課題先進地域でもあり、「他地区の地域銀行と同じことをしていては成長できない」という危機感は人一倍強い。副頭取時代に野村証券と提携し、証券子会社を解散するという地域銀初の試みに挑戦。2020年の頭取就任後も、再生エネルギーの子会社設立や外国人社外取締役の登用など、過去の常識やメンツにとらわれない大胆な改革を進める。
■「退職願い」が原点
株主や行員などステークホルダーの率直な意見を真摯(しんし)に受け止め、改革の原動力とする。若いころは上意下達の組織構造、本部や上席者が決めたことに服従する組織風土になじめずあっちこっちでぶつかり、30代前半で銀行に退職願いを出したことがある。退職願いは受理されなかったが、この苦い経験から、絶えず対話の機会を設けることで、若手も自由に意見を発信できる“ボトムアップ型”の組織風土定着を目指す。頭取就任以降も延べ200人以上の行員と意見交換してきた。
取引先や行員と対話する際は、あえて事前シナリオは用意しないのが山崎流。取締役会も根回しは禁止。「お客さまのためにできることを本質的に考え、本音で議論をしたい」からだ。その裏には課題先進地域の山陰をベースに生き残るには、「役職員一人一人が、誰のせいにもせず自ら課題を解決してやるんだという断固たる意志、変革に挑戦するスピリットを持つことが欠かせない」という思いがある。
■難航した証券提携
15年以上前の営業企画部長の時から気になっていたのが、預かり資産営業に携わる女性行員の声だ。当時、預かり資産営業はまだ、手探り状態。本部として十分にサポートできていないなかで「彼女たちは『支店長のためにもがんばりたい』と営業努力を重ねていた」。その状況がもどかしかった。
それから時が経ち、手数料も下がるなか、経営目線でも銀行単独での証券ビジネスに限界を感じ、悩み抜いた末、野村証券と金融商品仲介業務の提携の道を取締役会に諮った。
予想していたとはいえ、複数の社外取締役から猛反対された。理由は顧客本位の営業スタイルを損なうのではないかというもの。証券会社のコンプライアンス体制が優れていることや現行証券ビジネスの苦境をデータで示したものの理解は得られず、結論は持ち越された。2回目の取締役会も議論は平行線をたどり紛糾。証券業務から撤退する選択肢もよぎった。
その時、地域金融に詳しい別の社外取締役が、「ごうぎんがこの地域のお客さまに証券投資の機会を提供しないという選択肢はあり得ないでしょう」と一喝。再開された議論の場で、提携にはリスクが伴うこと、将来、万が一にも提携を解消した際には証券業務を全て失うと正直に語り、それでも、「全体としては顧客にも銀行にもリスクを上回るメリットがあるから、覚悟を決めたい」と、思いのたけを述べた。
反対していた社外取締役には、野村証券の営業体制、コンプライアンスなどのチェック体制、お客様アンケートの状況などを丁寧に繰り返し説明し、最終的に賛同を得ることができた。
野村証券との提携業務は計画を上回るペースで順調に発展。「数字面での実績ももちろんうれしいが、それ以上に女性行員の『安心して商品を提案できている』という声がうれしい」という。野村証券の提供する最新のマーケット情報やノウハウを共有できたことで、本当の意味での顧客本位の営業ができているという手応えを、行員の声や顧客アンケートから実感している。
■厳しい指摘で奮起
「5年後10年後の姿がイメージできない」――。頭取就任1年目、アナリストからはっきりとそう告げられた。辛辣(しんらつ)な指摘に「かなりへこんだ」。「どうしてそんなことを言われたのだろう」と思ったものの、熟慮した結果、「当時の当行には成長ストーリーがなかった」という結論にたどり着いた。厳しい指摘は「山陰合同銀行をより良くするため」と、ポジティブに捉え直して奮起した。

21年度に長期ビジョンを策定。実現に向けて構造改革を次々と実行した。10年後に銀行が目指す姿を役職員と話し合う「当行のミライを考える会」では山陰合同銀の価値観を再定義。“チームごうぎん”の目標を24年度にスタートした新中期経営計画に盛り込んだ。
■希望かなう組織へ
3期連続で過去最高益を更新し、経営は順調に見えるが、改革の手は緩めない。今、大きな課題として取り組んでいるのが組織の多様性促進。取締役会はプロパーの女性役員が誕生したり、地銀初の外国人役員が就任したりするなど多様化が進んだが、「銀行全体でみればまだ不十分」との認識だ。行員の女性比率47%は、女性支店長職以上で見ると22%にまで低下する。さらなる成長には「多様性確保は絶対に必要な要素」という。性差に関係なく働きやすい職場環境を構築して、希望して努力すればなりたい自分になれる。そんな組織を目指し、今日も課題解決の糸口を見つけに“対話”へと向かう。
■記者の目
決算会見や取材時の受け答えで、人一倍ゆっくり丁寧に話す姿が印象的。率直な話しぶりは場の緊張感を解きほぐし、ついいろいろなことを質問したくなる。ステークホルダーから厳しい指摘を受けるのも頷(うなず)ける。
対話から導き出された針路には説得力がある。変革への挑戦はリスクも伴うが、「自分も覚悟を決めて一緒に進もう」という気にさせてくれる人だ。 (樋野正人)
山崎徹(やまさき・とおる)
島根県出身。82年慶大卒、入行、営業企画部長を経て12年6月執行役員経営企画部長、14年6月常務執行役員、15年6月取締役専務執行役員、17年6月代表取締役専務執行役員、18年6月代表取締役副頭取執行役員、20年6月代表取締役頭取。
※この記事は2024/10/15にfree記事に変更しました。
【山崎 徹 氏の関連記事】
・金融ジャーナル社、「ベストバンカー賞」を山陰合同銀の山崎頭取へ授与
・2023年度ベストバンカー賞に山崎・山陰合同銀頭取 金融ジャーナル