【眼光紙背】金融はAIと進化する
2024.07.18 10:19
第1次オイルショックの1973年。台湾生まれの少年が米国の親類に引き取られた。アルバイトをしながら大学で学び、エンジニアリングの才能が開花。皿洗いで働いたデニーズで仲間と起業を練った。半導体の巨人、米エヌビディアを創業したジェンスン・ファンCEOの半生はアメリカンドリームだ。
アップル創業者のスティーブ・ジョブス氏が逝去したのは2011年。喪失感に包まれる米社会を当時取材していた私は、彼ほどの偉才が再び現れるだろうかと思ったが、さすがIT大国。その後もマーク・ザッカーバーグ氏(メタ・プラットフォームズCEO)やイーロン・マスク氏(テスラCEO)などテック界を牽引するアイコンが次々登場。そして今またファン氏がひのき舞台に立った。
時価総額は6月18日に約3兆3000億ドルに達し、一時世界首位に立った。AI(人工知能)用でシェア8割を誇る同社の躍進は、〝AIの世紀〟到来を象徴している。ファン氏は「次の産業革命が始まった」と宣言した。
多くの業界がAI活用に取り組み、金融も例外ではない。エヌビディア自身は、金融サービス分野の機械学習を加速させるためドイツ銀行と協業。大規模言語モデルのテストなどを行っている。
国内金融機関もAIへの投資と業務活用に前のめり。本紙でも随時報じているが、たとえば八十二銀行は生成AIと独自データベースを融合、リスク管理の高度化などを目指す。りそなホールディングスはマネーロンダリング対策などでの不正取引調査でAIを活用する。AIこそは今後のフィンテックの中核となろう。
一方、AIの急速な進歩には懸念も付きまとう。理論物理学者でAIの安全性を研究する団体を設立したマックス・テグマーク米マサチューセッツ工科大学教授は、ベストセラーの「LIFE3.0」で、AIは「我々に大きな機会と厄介な難題をもたらすだろう」と警鐘を鳴らした。
金融界も手を取り合う。大手銀行や証券・保険会社などでつくる金融データ活用推進協会は5月、「金融機関における生成AIの実務ハンドブック」を作成した。金融機関が生成AIのリスクの把握と管理を具体化する指針を想定している。
私自身は希望的だ。それはAIとともに金融も人類も〝進化〟できると願うから。
ちなみに、ファン氏は実はジャーナリスト志望だったそうだ。その理由を米メディアに「ストーリー(物語)を伝えるのが好きだから」と明かしている。確かに、ビジネスでもその企業が目指すストーリーを効果的に伝える能力は経営者にとって重要だろう。日本ではファン氏と親交のあるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が思い浮かぶ。
AIは、どこまで金融を変革するだろうか。期待とともに見届けたい。
(編集委員 柿内公輔)
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