【推薦図書】『生産性 誤解と真実』(森川正之著)
2024.07.05 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
生産性向上のための課題とは?
長らく日本の賃金は伸び悩んできた。背景には生産性の低成長があり、新興国の台頭も相俟(あいま)って、世界経済における日本のプレゼンスの低下が懸念されている。こうした状況下で、日本政府は経済成長戦略を掲げ、生産性向上を政策課題として打ち出してきた。一方、政府は企業に対して賃上げを要請し、今年の春闘では例年を上回る賃上げが実現したが、生産性の成長がなければ持続的な賃上げも難しい。改めて、生産性に関する関心が高まっている。
著者の森川氏によれば、生産性に関する議論には誤解も多いとのことである。本書は、正しい理解を促すためにわかりやすく解説するとともに、実証的・定量的な事実を踏まえ、エビデンスに基づく政策形成を意図して書かれてある。森川氏自身も生産性や労働市場、経済政策などに関する数多くの論文を発表されており、多面的、包括的な視点から生産性に関する興味深い議論が展開されている。
人手不足の悪化、コロナ禍を契機とする在宅勤務の普及など、本書が発行された2018年以降の新たな展開もみられるが、本書から学べることは依然として多い。生産性を適切に測定するには困難が伴うものの、生産性向上が日本経済の最重要項目の一つであることには違いはなく、本書は豊富な示唆を与えてくれる。
(日本経済新聞出版社、税込み3300円)