苦情に学べ カスハラとは別問題で対応を
2024.07.06 04:10
「苦情等」について、これまでその周辺の問題なども含め多角的に述べてきたが、最近「苦情等」にかかる新たな社会問題がよく取り上げられるようになった。「カスタマーハラスメント(カスハラ)」である。
カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相応なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの(厚生労働省カスタマーハラスメント対策企業マニュアルより)」である。ある調査によると、直近1年間で1回以上のカスハラ被害を受けたことがある担当者は64.5%、業種別でみると傾向として16回以上受けたとの回答はサービス業が33.3%であり、金融業・保険業が16.7%であった。サービス業の現場では、かなりの数のカスハラが行われている可能性が示唆される結果となった。この点は金融機関として憂慮すべき点である。カスハラも他のハラスメント同様に企業・従業員など、さまざまな悪影響を及ぼすものであり、その対応は金融機関として安全配慮義務などの観点からも適切に行われなければならない。
一方でこれまで「苦情等」は営業や業務改善のヒントが多数含まれており、金融機関としては真摯(しんし)に対応すべきであるとされてきた。大事な点は、金融機関として「苦情等」と「カスハラ」を混同しないで対応することである。
「苦情等」そのものには、先に述べたように業務改善等や行職員の育成といったメリットがまだあることは否定できない。従って「苦情等」をすべてを「カスハラ」の観点からすべて否定してしまうことには問題もあろう。行職員に対して「苦情等」の申し出があったことと、その申し出時の顧客の言動等にカスハラ的な要素があったこととは別の問題と考えるべきである。
「苦情等」と「カスハラ」の問題は今後事例や判例等で徐々にその関係性が整理されていくことと思われるが、いま一度、自金融機関内で「苦情等」「カスハラ」「金融ADR」について整理すべきであろう。
金融監査コンプライアンス研究所代表取締役 宇佐美 豊