河原・前警察庁サイバー警察局長が解説 「キャッシュレス社会の安全・安心の確保」(上)
2024.06.23 04:50
キャッシュレス化が進む一方、サイバー犯罪が急増している。「キャッシュレス社会の安全・安心の確保」に向けて、犯罪の現状や対策について、前警察庁サイバー警察局長の河原淳平氏が解説する。
1.公共空間化するサイバー空間
新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、行政手続のデジタル化、テレワークの積極的な実施やキャッシュレス決済の普及などが一段と進むなど、今やサイバー空間は多くの国民が重要な社会経済活動を営む公共空間となった。クレジットカード、デビットカード、電子マネー及びモバイル端末でのコード決済といったキャッシュレス決済の比率は4割近くまで上昇している。
2.金融サービス等を狙うサイバー犯罪の急増
その一方で、キャッシュレス決済等に関する犯罪の被害も増加傾向にある。クレジットカード不正利用については、日本クレジットカード協会によると昨年の被害額は約504.7億円と1997年に統計を取り始めて以降、最悪となった。また、警察庁によるとインターネットバンキングに係る不正送金の昨年の被害件数は5,578件、被害額は約87.3億円となり、いずれも過去最多を更新した(図1・2)。
被害増加の背景として挙げられるのがフィッシングの蔓延である。フィッシングとは、実在する組織等を騙ったメールやショートメッセージを送り付け、金融機関等を装う精巧な偽サイトに誘導し、ID、パスワード等の識別符号やクレジットカード情報等を窃取する手口をいう。フィッシング対策協議会によると、フィッシングの報告件数は右肩上がりで増加している。その内訳はクレジットカード事業者、EC事業者を装ったものが多くを占めている(図3)。
このほか、サイバー空間では、SNSに著名人になりすました偽の広告を掲載して投資を勧誘し、金銭を騙し取る「SNS型投資詐欺」の被害が多発している。警察庁の発表では昨年の被害総額は約278億円、1億円超の高額被害も発生するなど状況は深刻である。
3.警察による捜査等の取組
「SNS型投資詐欺」や恋愛感情等を抱かせて金銭を騙し取る「ロマンス詐欺」には、SNSを介して緩やかに結びついた「匿名流動型犯罪グループ」や海外の犯罪グループが関与している可能性がある。2024年3月には中国人とタイ人からなる日本人を標的とする詐欺グループがタイ警察に摘発された。警察は匿名・流動型犯罪グループの関与を視野に、実態解明、特殊詐欺連合捜査班を活用した被疑者検挙や海外を含む拠点の摘発に取り組んでいる。
また、海外の犯罪グループによって実行されるサイバー事案に対しては、国の捜査機関であるサイバー特別捜査部が俯瞰的な分析を通じた実態解明及び外国捜査機関と連携した国際共同捜査を推進している。昨年にはインドネシア国家警察との共同捜査で国際的なクレジットカード情報不正取得・利用事犯の被疑者を逮捕するなど着実に成果を上げている。
キャッシュレス社会の安全・安心を確保するためには、このような捜査等の取締りと並行して、被害の未然防止や拡大防止につながる、脅威の芽を摘むようなアプローチも不可欠である。警察では、金融庁、全国銀行協会等の関係機関・団体や金融機関を含む関係事業者と連携した取組を推進している。(下に続く)
[筆者略歴]
河原 淳平(かわはら じゅんぺい)氏
兵庫県出身、60歳。1988年上智大学大学院理工学研究科博士前期課程修了、警察庁入庁、1993年総理府国際平和協力本部事務局、1994年国際刑事警察機構(ICPO)事務総局、2010年内閣情報調査室内閣衛星情報センター分析部主任分析官、石川県警察本部長、2019年警察庁長官官房サイバーセキュリティ・情報化審議官、2022年警察庁情報通信局長、警察庁サイバー警察局長、2024年5月リーテックス顧問。