【眼光紙背】「令和の介入」に思う
2024.06.20 04:30国際金融会議を何度も取材したが、かつて日本の関心は常に為替だった。2010年代初頭の欧州債務危機でも円高是正を訴えていた際は、さすがに違和感を抱いた。今も官民ともに為替の注目度は高いが、輸出企業も海外に拠点を広げ、様相は随分変わった。
一方、新たな戸惑いもある。22年9月の急激な円安局面で、政府と日本銀行は四半世紀ぶりに円買い(ドル売り)介入を行った。今春の円安局面でも断続的に介入。10兆円近いとされる規模感も異例だが、当局が介入の有無も明かさぬまま臆測が飛び交い、市場が大揺れとなった。その様は〝劇場型〟といえよう。
背景には、今や取引も情報もネット中心で、外国為替証拠金取引(FX)市場の拡大が指摘できる。そして介入の司令塔、神田真人財務官にも注目が集まった。財務官時代に積極的な介入姿勢で知られた榊原英資氏になぞらえ「令和のミスター円」と称する向きもある。SNSや金融サイトでは神田氏の動向が虚実入り乱れ、誹謗めいたものもあった。
自戒を込めメディアも冷静になる必要があろう。報道も連日過熱するなか、ある日刊紙が「財務官に軍配か」と題する記事を電子版で掲載した。ただ、介入は個人プレーにはあらず。神田氏も財務省内で大臣や「タメシカ」と呼ばれる為替市場課の面々と協議を重ねたはずで、そこには米当局も含まれよう。
ある元財務官は「介入で肝要は、役者(当局者)が目立たぬこと。できれば巨額介入に至らぬ差配こそ上策」と語っていた。
マイナス金利は解除されたが、内外金利差は依然大きく円安の地合いが続く。自動取引など過去と比較にならない投機的動きに、神田氏はじめ当局の悩みは深いことだろう。
それでも相場が経済のファンダメンタルズから大きく乖離(かいり)した際、非常手段で踏み切るのが介入。「伝家の宝刀」とも呼ばれるのは、めったに抜かぬからこそ、でもある。
(編集委員 柿内公輔)
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