バンカーの幸せ⑨~仕事からの精神的独立と自分らしさ
2024.05.12 04:55
今回も引き続き「独立と自分らしさの因子」についてお話しいたします。
独立には、有形な経済的独立と無形な精神的独立の二種類があります。「一杯目、人、酒を呑み、三杯目、酒、人を呑む」と言います。酒は呑むものであり、呑まれてはいけません。同じように、お金やモノはただの道具であり、人がお金やモノをコントロールするのであって、経営者がお金やモノにコントロールされていては、本末転倒でしょう。
情報についても、この情報氾濫社会において、情報は活用するものであり、経営者がそれに振り回されていては困りますね。そのためには、①その情報は事実か? ②その考え方は本当か? ③自分はどう考えるか?――といった順序で確認してみるのが良いと思います。自分の目で事実を確かめ、広く学び、深く考えることを心がけていきたいものですね。
更に、仕事や時間の奴隷にもなりたくありません。仕事に対する誇りを持ち、仕事を自分自身のものに変えていく。自分の意思を持って仕事を動かしていくことが、仕事からの精神的独立だと考えています。
自立とは、従属ではなく、孤立でもありません。「自灯明、法灯明」。God helps those who help themselves. 「天は自ら助くるものを助く」。経営者としての姿勢が問われているように私は感じました。
そして、「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」と言います。仲良しが、ただワチャワチャしているのは、「同」であって「和」ではないのでしょう。「和」の心とは、自立した人同士が、互いの多様性を認め合うことであり、「寛容」さが不可欠だと思うのです。
一流の人はみんな個性的です。そして、様々な個性が調和することで、強いチーム、強い組織が創られます。
自分の考え方が定まり、自分のやり方に自信が持てるようになると、ともすると自分と違う考え方を否定し排斥したくなります。でもそれでは、自分も組織も進歩はできません。「みんな違ってみんな良い」。広い心を持ち寛容であることを日々自分への戒めとしています。
自分自身と深く向かい合っていると、自分の中に「天」を感じることがあります。逆説的かもしれませんが、「独立と自分らしさ」とは、自分が「天」の一部だと目覚めることなのかもしれません。
「天何故にか我が身を生み出し、我をして果たして何の用にか供せしむる。我既に天のものなれば必ず天の役あり。」「天を相手にして己を尽くして、人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし。」佐藤一斎や西郷隆盛の言葉が胸に浸みます。
バンカーの仕事は「天」から与えられた誇りある仕事だと思うのです。
①~⑧はこちらからご覧いただけます。次回は6月9日公開予定です
筆者プロフィル
新田信行(にった・のぶゆき) 開智国際大学客員教授、一般社団法人ちいきん会代表理事。
千葉県出身、1981年一橋大法卒、第一勧業銀行(現みずほ銀行入行)、みずほフィナンシャルグループ与信企画部長、みずほ銀・銀座通支店長、同・コンプライアンス統括部長を経て2011年みずほ銀常務執行役員。2013年第一勧業信用組合理事長、同会長、2021年退任。2016年黄綬褒章受章。
著書 「よみがえる金融」(ダイヤモンド社)、「誇りある金融」(共著、近代セールス社)、「リレーションシップバンキングの未来」(共著、金融財政事情研究会)
新田信行氏の過去の連載 はこちら アフターコロナへの展望(全10回)
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