【推薦図書】『戦争とデータ―死者はいかに数値となったか』(五十嵐元道著)
2024.04.26 04:30
【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
戦争データを生成する戦い
ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルのガザ侵攻は終わる気配がない。犠牲者の数は増え続けており、毎日、痛ましいニュースが流れている。
人類は長い歴史のなかで何度も戦争を繰り返してきたが、死者数を把握するようになったのは最近のことだそうである。しかし、容易に想像できることだが、戦争下の死者数の把握は困難を極める。本書では、気の遠くなるような関係者の努力により戦争データが生成されてきた経緯が説明されている。戦争データを生成する上で民間人を定義するだけでも簡単ではない。また、戦争被害者のデータは政治的にも重要な情報であり、データを偽装するインセンティブは絶えない。
人権意識が高まり、国際機関や国際NGOが戦争データの収集で活躍するようになる。戦争犯罪を裁く上でも戦争データが必要となり、統計的手法や法医学、DNA検査などのさまざまな科学的手法が駆使されるようになった。しかし、死者数の推定精度を改善しても、それが社会的に受容されるとは限らず、ときには被害者側の反発を招くこともある。
衛星画像のAI(人工知能)解析など、技術の進化も戦争被害の把握に貢献した。しかし、技術は悪意ある使途にも利用可能であり、虚偽の戦争データとの戦いが展開されていくのだろう。
(中公選書、税込み1925円)
関連キーワード
おすすめ
アクセスランキング(過去1週間)
- 横浜銀や静岡銀など20行庫、生成AIの実装拡大へ 検証結果・最善策を共有
- 西京銀、口座開設効果で給振1000件 サービス拡充、流出防ぐ
- 七十七銀宇都宮法人営業所、東北へのつなぎ役に徹する 開設2年で融資170億円
- 三菱UFJ信託銀、低コストPEファンド 1~4号累計で900億円
- 加藤金融相、信用金庫の資本基盤は「総体として安定」
- 都銀、貸出金利引き上げ先行 地銀上回る月も
- 金融庁、サステナ情報開示義務化 SSBJ基準適用
- 肥後銀、「オペレジ」確保を高度化 勘定系バックアップ平日稼働
- しんきん共同センター加盟235信金、「AIスコア」導入へ マネロン対策を底上げ
- ひろぎんHD、女性登用へ階層別研修 役員面談で意識改革