【眼光紙背】静かな危機と対峙(たいじ)せよ
2024.04.04 04:30
熱湯に入れられたカエルは驚いて飛び出すが、水から徐々に熱すれば気づかぬままゆであがり息絶えてしまう。静かに進行する危機の怖さを示す警句だが、哀れなカエルに我が国の財政を例えたら叱られるだろうか。
日本銀行がマイナス金利政策を解除した。金融史に刻まれるであろう話題に関心が集まるこの機会に、強く結びつく財政問題の厳しさにも刮(かつ)目したい。
異次元緩和の過程で日銀は国債を大量に買い続けた。主導した黒田東彦前総裁は「財政ファイナンスではない」と釈明したが、その当否はさておき、政府の財政拡張を日銀が支える構図になった。
バブル崩壊後の財政出動で国債発行残高は年々膨張。先日成立した2024年度予算案で、償還や利払いに充てる国債費は過去最大の27兆円で歳出の約4分の1を占める。債務残高は国内総生産(GDP)の2.5倍を超え先進国で最悪水準だ。
そこに今後の金利上昇が重くのしかかる。内閣府の試算では33年度に長期金利が3.4%まで上昇、国債利払い費は23年度の約3倍の22.6兆円まで膨らむ。一方、日銀がバランスシートを縮小する過程で新たな国債の引き受け手をどこに見いだすかという問題もある。
歳出引き締めと増税で財政再建を目指す財務省はとかく評判が悪い。筆者も担当していた頃に「行政の無駄を見直せば」と主計官に食って掛かったら、「事業仕分けはどうだった?」と返された。無批判に官僚の肩を持つつもりはないが、大混乱を招いた民主党政権は極端な例としても、時々の政権がインフラ、社会保障など重要な課題の長期ビジョンと平仄(ひょうそく)のとれた財政再建策を示せず、場当たり的な対応で今に至る面は否めない。
経済企画庁出身の小峰隆夫氏は理事を務める日本経済研究センターの論考で「ポピュリズムに向かう経済運営は、結局は財政赤字で終わる」と戒めた。
一方で財政運営を巡っては、財政規律派と積極財政派(上げ潮派)の二極化論議になりがちだ。マイナス金利解除から間もない3月21日、早くも自民党内で規律派と積極派がそれぞれ会合を開きアピールした。規律派の重鎮である古川禎久元法相が「着実に健全化の歩みを進めなければいけない」と強調すれば、積極派の西田昌司参院議員は「金融が正常な方向になったら、財政もという議論が必ず出てくる」と健全化論議の加速を牽制(けんせい)した。
財政運営は国が担うが、有識者や金融界を含めた国民的論議が必要だ。ただ、硬直的な財政運営はかえって仇(あだ)となる。例えばコロナ禍や年初の能登半島地震など大災害や国難有事には、機動的な財政出動が求められよう。
冒頭の警句のような悲劇は実際には訪れないかもしれない。それでも、財政の信認低下は国際的プレゼンスが近年落ち込む日本に一層痛手だ。中長期的な国家のグランドデザインに即した財政の展望を描きたい。
(編集委員 柿内公輔)
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