【推薦図書】『ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論』(久保健治著)
2024.03.15 04:30【推薦者】信金中央金庫常務理事・室谷 武彦氏
地域の差別化戦略の鍵は、「歴史」にこそある
急速に進む少子高齢化を背景として、地域の人口減少に歯止めがかからず、地域は観光、企業誘致、移住などで熾烈(しれつ)な地域間競争を実施している。
一方、どの地域もマス受けする施策を行った結果、そうした施策が模倣される「マーケティングのジレンマ」に陥っている。本書は、脱コモディティ化を実現するため、模倣することができない「歴史」に基づくブランディングをヒストリカル・ブランディングと呼び、その可能性を論じている。具体的には、観光によるヒストリカル・ブランディングとして、北海道小樽運河、千葉県佐原の大祭の事例を、商品開発による地域ブランディングとして、千葉県横芝光町の大木式ソーセージ、熊本県菊池市の菊池一族の事例を紹介している。一方、歴史文化観光の失敗事例として、認知拡大だけでは需要が生まれない、歴史的景観だけでは消費につながらないなどの事例の分析も行われている。
ヒストリカル・ブランディングは、「稼ぐ」といった同一基準の経済競争である「勝つための競争」から、それぞれにとっての「価値」を目指し、多様性を認容する「負けないための競争」へと転換を促すものである。そうした意味では、サステナブルな地方創生に通じると感じる。
(KADOKAWA/角川新書、税込み 1034円)