ファンドラップ戦国時代 ~勝ち残る条件~

2024.03.04 04:45
資産形成
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拡大するファンドラップ市場


新NISA(少額投資非課税制度)の幕開けとともに始まった2024年。2月22日には、日経平均株価が39,098円(終値)と過去最高値を更新。政府の資産運用立国の文脈と株高を背景に、いよいよ本格的にリテールビジネスの現場が変わろうとしている。資産管理型ビジネスモデルへの転換が進むなか、ファンドラップの特性を生かした付加価値の高いサービス提供がカギを握る。


金融機関の現場では、これまでの販売手数料に依存したビジネスモデルから資産管理型のビジネスモデルへの転換が進められている。資産管理型ビジネスは、主にファンドラップという投資一任方式でのサービス提供が一般的だ。ファンドラップは、お客様と金融機関が投資一任契約を締結し、金融機関がお客様から一任を受ける形で、投資対象となる有価証券の価値判断とその執行を行う契約を指す。


その特徴は、販売時はノーロード(無料)、お客様の預かり資産の増加が金融機関の収益増加につながることから、金融庁が警鐘を鳴らす回転売買に陥りづらい点が挙げられる。


日本投資顧問業協会が公表している統計資料によると、2023年9月時点で個人の契約数は157万件、契約金額は14兆5000億円と、2017年3月対比で契約数は約3倍、契約金額は約2.5倍まで拡大している。



また、筆者試算によるファンドラップ事業者数(一部の超富裕層向け事業者を除く)は、2023年9月時点で24事業者と、2017年3月対比で+9事業者と増加傾向にある。


ここで重要なことは、ファンドラップはサービスであり、商品ではないことだ。筆者は、ファンドラップ市場が拡大する中で、退職金キャンペーン対象商品になるなど、既にコモディティ化による付加価値の低下が進んでいると懸念している。ファンドラップは、商品として提供した時点から、その付加価値と対価は競合環境の中で薄まっていくことは避けられない。


また、残高を増やすために顧客への付加価値よりも販売会社への売りやすさを重視して設計した場合、顧客離れは避けられない。これは投資信託が歩んできた道である。ファンドラップ戦国時代とも言える昨今。今後、長くお客様に愛されるサービスも出てくれば、淘汰されるサービスも出てくるだろう。本稿では、ファンドラップ提供側からの目線で、その繫栄と淘汰の条件を考察したい。


新潮流の「プラン・プロセス重視型」


ファンドラップのサービスコンセプトは大きく2つに大別される。


対面型ファンドラップは、従来富裕層向けのサービスとして設計・運用されてきた。金融機関であるプロが、お客様の意向やリスク許容度を踏まえ、最適なポートフォリオ組成とアドバイスを行い、継続的にポートフォリオのメンテナンスを行う。


サービスコンセプトは、主に「投資や資産運用を考える時間がない」「投資判断に自信がない」というお客様に代わって運用するというもの。お客様それぞれに個別のポートフォリオを組成することから、システム運用負荷が高く、一定水準以上の残高が預けて頂く必要があり、必然的に富裕層向けのサービスとなっている。


一方、昨今ではロボットアドバイザーの発展・普及に伴い、一般層向けの非対面サービスを展開する事業者も増えており、契約金額の小口化・手数料の低下が進んでいる。共通点はパフォーマンス重視のサービスであるという点だ。 


最近の潮流としては、ゴールベースアプローチ型の対面サービスとして設計・運用するプラン・プロセス重視の事業者が増えている。お客様の投資目標(ゴール)を設定した上で、ゴール達成に向け継続的なアドバイス付加価値を提供する。


このようなプラン・プロセス重視のサービスでは、ポートフォリオはシンプルなバランス投信が組入れられていることが多く、専用バランス投信の合同運用スタイルが一般的。そのため、システム運用負荷は低く、最低投資金額は総じて低く設定可能だ。プランのカスタマイズに必要な増額や減額、積立、取崩、運用レベル変更、複数ゴール対応、運用期間の変更などの機能や、プランの達成確率や進捗率を表現する営業支援ツールなどが充実していることが特徴だ。


筆者試算によるプラン・プロセス重視のサービスを展開する事業者数は、2019年3月時点では1社であったが、2023年9月には7社まで拡大している。


また、平均契約単価もゴールベースアプローチの認知度向上とともに、2023年9月には600万円まで上昇していることに加え、投資目標は更に大きな金額のため潜在的な残高は更に大きいと推察され、その存在感が増している。


ポートフォリオ重視、プラン重視ともにお客様への提供付加価値の力点に違いはあるものの、両社に共通しているのは、契約残高の増加が収益増加につながることである。つまり、お客様の期待を上回る付加価値を継続的に与えられるかがビジネスとして発展する条件と言える。


フォローの質が勝敗を分ける


筆者は結論として、フォローアップの質(=アドバイス付加価値)をサービスとして高められるかが、勝敗を分けると考えている。アドバイス付加価値はお客様との信頼関係構築をエビデンスにしており、コモディティ化しづらい特徴がある。お客様の実現したいライフプランに、資産運用を明確に位置付けた上で、継続的にアドバイス付加価値を提供出来るかがポイントだ。


サービス導入時はお客様のライフプランを踏まえた提案だとしても、フォローアップが、運用成績の上がった、下がったのみでは、投資信託で十分なのである。投資信託は言わずもがなプロが運用を提供する商品である。


冒頭申し上げた通り、ファンドラップは、商品ではなくサービスだ。お客様が安くはない投資一任報酬を支払うのは、投資信託スキームでは提供されない投資一任スキームならではのサービスを受けられるからである。ここで言うサービスとは、ファンドラップ事業者によって力点が異なることは前述の通りである。投資一任契約はサービス設計の柔軟性が高いことから、様々なお客様のニーズに応えるための設定が出来るが、その中でも特にフォローアップの付加価値をどのようにサービスとして打ち出すかが重要だ。



人は誰でも実現したい夢や目標は漠然と持っているものだ。ただし、それを言語化出来ていない、具体的な行動に移せていないなど、自らのライフプランを人に話せるレベルまでイメージ出来ている人は実は多くない。


ライフプランというのは、自身の感情や健康状態、給与水準、資産背景に加え、家族や職場など外部要因から受ける影響が大きく、証券市場(相場)と同じくらい不確実・コントロールが効かないものである。例えば、教育・老後資金のために運用していたお客様が、予想外にリフォーム資金が必要となり資金計画が変更せざるを得ないことは、必然的に発生する。


ファンドラップがお客様に資産運用を通じて一歩踏み込めるサービスだとすれば、金融機関はお客様が実現したい夢や目標を認識して、様々な変化を踏まえ目標達成に伴走することが高付加価値のサービスの条件と考える。


また、お客様が実現したい投資目標毎に、顧客の運用リスクは異なるべきであろう。教育は実現したい時期が近いため運用レベル2、老後は長期間のため運用レベル5のようなリスク選好度を取り入れられると付加価値は高まる。リスク許容度は名前の通り、許容限度でしかなく、目標毎にアクセルの踏み方は変わるからだ。


証券市場も変わる、ライフスタイルも変わる、考え方も変わる、担当者も変わることは、避けられない事実である。ファンドラップが今後お客様から愛されるサービスに発展するためには、金融機関側の土俵ではなく、お客様の土俵で会話が出来るサービスが必要であろう。


新NISAの開始、日経平均株価が過去最高値を更新する中で、お客様の資産運用に関する考え方はポジティブに変わっている印象だ。しかし、相場は良いときも悪いときもあり、下方局面は必ず訪れる。相場悪化時こそ、お客様に寄り添い、ライフプラン実現という観点で、合理的な判断をお客様に与え続けられるかが、ファンドラップ戦国時代を勝ち残る条件ではないか。


最後に


ファンドラップは、お客様とのヒアリングを通じて、長期的に信頼関係を構築しつつ、お客様の残高増加が金融機関の収益増加につながるWin-Winのサービスである。しかし、お客様からの信頼を勝ち取ることはそう簡単ではない。最初から「全ての金融資産を教えて下さい」というスタンスでセールスをしても応えてはくれないだろう。


そこには、金融機関とお客様との信頼関係と投資を行う合理的な理由、そして定期的なフォローアップが必要不可欠である。金融機関が組織として、お客様の夢や目標に伴走していくパートナーになりえるか。ファンドラップには、貯蓄から投資を飛躍的に進捗させる可能性を持ちつつも、やり方を間違えればコモディティ化の波に飲み込まれ衰退していく可能性も十分にある。お客様にとって最良なサービスとはどのようなサービスか徹底的な議論と検証に期待したい。



日本資産運用基盤グループ 執行役員兼金融機関コンサルティング部門長 直井 光太郎(なおい こうたろう)氏


2010年早稲田大学教育学部卒。みずほ銀行入行。21年日本資産運用基盤グループに参画。証券会社・運用会社・銀行の課題解決に向けたソリューション開発や提案活動を行う。22年10月から2023年3月に『バンカーを輝かせる業績評価(全6回)』、23年8月『再考・預り資産ビジネス(全3回)』を寄稿。

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