【推薦図書】『ChatGPTの頭の中』(スティーヴン・ウルフラム著、稲葉通将監訳、高橋聡訳)
2024.03.01 04:30【推薦者】野村証券副社長・鳥海智絵氏
「考える」を考える
ChatGPTの解説本は世の中に溢(あふ)れているし、本書がその中で「わかりやすい」わけでもない(むしろ文系人間には難しい)。しかし、ChatGPT(大規模言語モデル)が文章を作るときに中で起こっていることの説明は興味深い。
単純に言うとChatGPTは、人が作った膨大な文章を飲み込み、質問を受けると飲み込んだ統計データを基に次の単語はこれだろう、と予測した単語を繋(つな)げて回答を提示する。人が期待する答えに報酬を与える、という学習を繰り返すことで、より「それっぽい」答えを出す訓練をされているのである。従って読み書きはできるがソロバンは苦手だ。
「すごい脳みそ」じゃない気がしてやや拍子抜けなのだが、一方で自分自身が「考え」ているつもりのことも、過去にインプットした言語・非言語のデータに基づいて自分や相手が期待するような確からしいアウトプットを出しているだけなのではないか、と思い始める。
1年前の本欄でご紹介した「WHOLE BRAIN」でいう「左脳の大脳皮質(考える左脳)」はAIで置き換え可能なものとなり、「右脳の辺縁系(感じる右脳)」あたりが人を人たらしめるものになるのだろうか、とも思う。
(早川書房、税込み1012円)