【推薦図書】『技術革新と不平等の1000年史 上・下』(ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン著、鬼澤忍、塩原通緒訳)
2024.02.23 04:30【推薦者】日本銀行金融機構局長・中村康治氏
技術革新を多くの人々の幸福につなげるには
現在、AIを始めとする情報技術革新が日進月歩で進んでいる。こうした技術革新の社会への影響については、大きく分けて二つの見方がある。一つは、技術革新楽観論である。技術革新を進め、それを経済活動に広めることによって、その成果は、おのずと社会全体に均霑(きんてん)するというものである(本書では「生産性バンドワゴン」と記述されている)。もう一つの見方は、技術革新悲観論である。技術革新は、その成果が一部のエリートに集中する一方、社会の多くの人々は、低所得にとどまり、場合によっては、失業などによって、かえって生活水準が低下するというものである。
本書は、過去1千年にわたる人類の技術革新の歴史とその社会への影響を丹念に検証し、多くの場合、技術革新悲観論が示すような状況が実現してきたことを示している。そのうえで、著者達は、市民や労働者の生活水準が向上した事象に焦点をあて、「経済的、社会的、政治的な選択」によって、技術革新の成果を社会の多くの人々の幸福につなげることができると主張する。
本書は、技術革新に対する警告の書であると同時に、技術革新が多くの人々に幸福もたらす可能性があることを示す希望の書でもある。
(早川書房、税込み3300円)