Nikkin金融講座 金融入門(17)人々を突き動かす「免税」の魔力(2)

2024.02.16 04:01
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 ◆世界で膨らむ「国の借金」

国際金融協会(IIF)によれば、世界の債務総額は2023年6月末時点で307兆ドル(約4京5743兆円)。過去10年で約100兆ドル増えました。セクター別の内訳は、企業債務が約89兆ドル、政府債務が約88兆ドル、金融機関が約70兆ドル、家計が約57兆ドルとなっています。

 債務の拡大は、特に先進国で顕著です。ほとんどの先進国は慢性的な財政赤字に苦しみ、膨大な借金を抱えています。主要7カ国の中で、国内総生産(GDP)に占める政府債務の割合(23年の推計値)が最も高いのは、日本の258%。財政状態は先進国でワーストです。一方、最も健全なのはドイツで67%。その他の5カ国は100%台で推移しています。

 日本の「国の借金」は、23年12月末に過去最大の1286兆円になりました。ここまで政府債務が膨らんでしまうと、自国の通貨価値を大きく引き下げることなしに借金を返済するのは難しいとの見方が一般的です。万一、ハイパーインフレによって通貨価値が大幅に下落すれば、政府による借金の返済負担は実質的に軽くなります。

 ただ、同時に多くの国民が貧困に追いやられます。「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ」。これはレーニンの言葉ですが、経済学者のケインズも「レーニンはまったく正しかった。社会の基盤をくつがえすには、通貨を堕落させることほど巧妙で確かな方法はない」と語っています。

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 ◆税制改正は毎年12月に決着

24年は世界的な「選挙イヤー」です。米国・ロシアの大統領選、韓国・インドの総選挙、EUのヨーロッパ議会選挙など目白押しです。選挙を控えた政治家が、大盤振る舞いの公約を掲げて選挙民の歓心を買おうとするのは万国共通。財政のタガが緩み、政府債務がさらに膨張する懸念がささやかれています。

 世界が注目する米大統領選は、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が再び対決する公算が大きくなっています。トランプ政権が17年に実施した大幅減税は、財政赤字を大幅に膨張させました。そのうち所得税減税は25年に失効するため、トランプ氏は恒久化を計画しています。米国債券市場は、トランプ氏が返り咲いた場合に財政赤字の拡大によって国債価格が下落することを警戒しています。

 日本でも税制を巡る議論は、政治日程の中で重要イベントの一つです。毎年、与党と税務当局(財務省、総務省)が歩調を合わせ、各業界から提出された税制改正要望をふるいにかけます。12月に最終決定して「税制改正大綱」という文書にまとめ、翌年3月末までに税制改正法案を国会で承認し、4月から適用されるのが通例です。


 ◆節税めぐり“いたちごっこ”

新しい少額投資非課税制度(NISA)がスタートした1月に、多額の資金が投資信託市場に流入したことからも分かるように、減税は国民の行動を大きく左右します。NISAはまだ制度創設から10年ですが、金融関連の減税措置には歴史の古いものも少なくありません。生命保険料控除は大正時代の1923年、住宅ローン減税は78年にさかのぼります。前者は、生命保険に加入している納税者に適用される所得控除で、所得税や住民税の負担が軽減されます。後者は、住宅ローンの残高に応じて所得税などが減税される制度です。

 数年前には、節税効果があるとして中小企業経営者に大ヒットした保険商品もありました。「傷害保障重点期間設定型長期定期保険」という長い名前から分かるように、複雑な仕組みの商品です。大手生保が相次ぎ商品を投入し、保険商品を販売する銀行でも売れ筋商品でした。しかし、税制の抜け穴を突いて節税効果をうたった商品だったため、国税庁が19年に課税ルールを見直して抜け穴をふさぐと、生保各社は一斉に販売を停止しました。

 かつて発泡酒や第3のビールを開発したビールメーカーもしかり。課税ルールの間隙(かんげき)を縫って消費者のために知恵を絞る民間企業と税務当局の“いたちごっこ”は、この世に税金がある限りなくならないのかもしれません。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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