【推薦図書】『イーロン・マスク 上・下』(ウォルター・アイザックソン著、井口耕二訳)
2024.02.02 04:30【推薦者】住友生命代表執行役専務・栄森 剛志氏
革新の裏側:狂気と純粋さ
現在進行形でイノベーションや騒動を起こし続けている人物の物語なので非常に面白い。筆者によるとイーロン・マスクからは「刊行前に本書を読ませてくれという話はなかったし、実際、読んでもいない」そうだ。だから決して英雄譚(えいゆうたん)ではない。イーロン・マスクの生い立ち、イーロンを取り巻く人々、各事業の舞台裏、さまざまな騒動の顛末(てんまつ)を赤裸々に語っている。
イーロン・マスクはかなり変わった人物だ。発達障害であることを告白している通り、コミュニケーション能力が乏しく、人の気持ちが理解できない。気分の抑揚が激しく、特に「悪魔モード」になった時の彼は冷酷で傍若無人な人物になる。目的の達成に異常な執着を持ち、それを周りに容赦なく求めるので職場はいつも「シュラバ」と化す。しかしその妥協のなさが奇跡とも言えるイノベーションを生み出す。
彼のような人物を受け入れる環境があることが巨大イノベーション企業を次々に生み出すアメリカの強みなのだと理解できる。人にやさしい職場などと言っていては、イノベーションは生まれないのだと思い知らされる。
(文藝春秋、税込み2420円)
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