Nikkin金融講座 金融入門(14)金融犯罪は時代を映す鏡(1)
2024.01.26 04:01
◆銀行強盗はサイバー空間へ
警察が発生を把握した犯罪の件数(認知件数)は、2002年の285万件をピークに減少基調が続いています。22年は60万件で、20年前の約5分の1でした。銀行が最も警戒してきた強盗事件のニュースも、最近はめっきり目にすることが減りました。
金融機関強盗はバブル経済崩壊後の不況期に増加し、01年に229件を記録。土日・祝日を除く営業日でみると、ほぼ1日1件の割合で起こっていました。しかし、その後は減少が続き、22年はわずか17件でした。金融機関が高性能な防犯カメラや非常通報装置を設置するなど防犯対策を強化し、犯人の検挙率が高まったことが要因です。ちなみに、22年の検挙率は100%でした。
その一方で、金融機関のインターネットバンキングを狙った不正送金は、ものすごい勢いで増えています。23年(1~11月)の被害件数は前年比4.5倍の5147件、被害額は同5.3倍の80億1000万円となり、いずれも過去最多を更新しました。主な犯行の手口は、銀行を装ったフィッシングサイト(偽サイト)へ誘導する電子メールやSMS(ショートメッセージサービス)を送り付け、そこに記載されたリンクからアクセスした人にIDやパスワードを入力させるというものです。
◆ネット犯罪は国境を越える
同様の手口でクレジットカード番号を盗み取るクレカ不正利用は、さらに深刻な状況です。22年の被害額は436億7000万円に上りました。さらに、23年も増加傾向が続き、1~9月の被害額は401億9000万円。通年では過去最悪を更新したことがほぼ確実な情勢です。危機感を強めた警察庁は、昨年11月に金融界やIT業界と検討会を立ち上げ、生成AI(人工知能)を活用した偽サイト判別技術の導入などを検討し始めました。
金銭目的のサイバー犯罪が急増しているのは、犯罪者にとって利益効率が非常に高いからです。容易に参入でき、かつ収益は莫大で、さらに捕まりにくいという状況にあります。一説では、サイバー犯罪者が逮捕される割合は数%と言われています。しかも、コンピューターとインターネット環境、銀行口座さえあれば、世界中どこからでも国境を越えた犯罪活動が可能です。
実際、日本も標的になっています。「有料動画サイトの利用料が未払いです」などのメールを送り付け、そこに書かれた電話番号に問い合わせた人から電子マネーをだまし取る特殊詐欺は、国際電話による被害が急増しています。犯行に国際番号が使われた件数は昨年夏以降に増え始め、23年6~11月の半年間で1万件を超えました。
◆中央銀行を欺いた送金要求
中央銀行を狙ったサイバー犯罪も起きています。16年にバングラデシュ中央銀行がサイバー攻撃を受け、同行が米ニューヨーク連邦準備銀行に開設していた口座から9億5000万ドル(約1397億円)をフィリピンやスリランカなどに送金するよう、不正な要求が行われました。
SWIFT(銀行同士の国際的な送金インフラ)の正式な手続きに基づく送金要求だったため、ニューヨーク連銀は疑うことなく送金を実施。途中で不正が判明して取引を中止しましたが、既に8100万ドル(約119億円)が送金されており、フィリピンなどで引き出されていました。その後の調査では、背後に北朝鮮の関与が浮上。引き出された現金はマニラのカジノで資金洗浄されたとみられています。
この事件の後も、SWIFT加盟銀行を狙った国際的なサイバー攻撃は続いるようです。残念ながら、テクノロジーの恩恵を受けるのは善良な個人や企業だけではありません。犯罪集団は最新の技術を駆使し、サイバー空間で暗躍しているのです。
日本金融通信社編集局 国定直雅
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