【推薦図書】『「経済成長」の起源――豊かな国、停滞する国、貧しい国』(マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン著 秋山勝訳)
2024.01.12 04:30
【推薦者】東短リサーチ社長・加藤出氏
重要な人的資本への投資
何が経済を成長させてきたのか? この問いに答えるのは実は容易ではない。時代や地域によって人々が豊かになった背景やメカニズムが異なっているからである。
そこで本書は、経済学者らの主要な理論を「公平に評価」しつつ紹介し、地理的条件、社会制度、文化、人口動態が与えてきた影響を解説している。中世から現在に至る世界の実例が登場する。経済の壮大な歴史ドラマを見ているような印象を受ける。
産業革命以降に着目すると、人的資本への投資、つまり教育を重視した国が伸びている。ドイツが第二次産業革命で最前線に躍り出たり、米国が20世紀に世界経済の覇権をとったりした背景には、教育制度の拡充が存在した。日本も同様との見解が紹介されている。徳川時代にすでに「庶民向けの何万もの教育施設、276の藩校、約1500の私塾」があり、日本の識字率や計算能力は「西ヨーロッパの水準に匹敵していた」。それが明治維新後の急速な工業化を牽引(けんいん)した。第二次世界大戦後の発展も人的資本の「比較優位性」によるものだった。
そういった日本の優位性は今のデジタル時代において消えてしまっただけに、長期停滞から抜け出すには時代に即した教育が必須なのではと本書を読んで痛感させられた。
(草思社、税込み3740円)