Nikkin金融講座 金融入門(12)フィンテックが世界を変える(1)

2024.01.12 04:01
金融入門
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 ◆世界的な競争が活発化

「フィンテック」とは、金融を表すファイナンスと技術を意味するテクノロジーを組み合わせた造語です。最新のテクノロジーを活用した新しい金融サービスを指します。一過性の流行語に終わることなく、現在でも金融の将来を占ううえで重要なキーワードとなっています。この新語が市民権を得たのは、2008年に起きたリーマン・ショックの後でした。金融危機を引き起こした大手金融機関への不信感が高まり、金融分野にITベンチャーが相次ぎ参入したのです。07年に初代iPhone、08年にAndroid端末が発売され、同じ時期にスマートフォンが爆発的に普及したことも追い風となりました。

 現在のフィンテックの担い手は、IT業界の巨人や新興企業だけではありません。既存の金融機関も、本腰を入れて競争に加わるようになりました。システム投資を惜しんで傍観者になれば、時代に取り残されることは必至だからです。デジタル革命の波はあらゆる業種に及んでいますが、物流を伴う製造業や小売業などと異なり、金融は業務のほとんどが情報のやり取りだけで完結します。生成AI(人工知能)の登場によって言語の壁も低くなっており、今後は国境を超えた競争がより活発になるでしょう。

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 ◆護送船団で「守らない」

金融庁は、17年と18年に2年連続で銀行法を改正しました。いずれも、既存の銀行に対してフィンテックへの対応を促す内容でした。17年改正により、銀行はフィンテック企業に出資しやすくなりました。18年改正は、フィンテック企業が銀行システムに接続できるように、銀行に対して外部への開放を求める内容でした。当時の金融庁長官は「我々は既存の金融機関を護送船団方式で守るつもりはない。新たな金融サービスが出てきて、それが顧客に役立つものであれば、その普及をサポートする」と語っていました。

 護送船団は、最も遅い船に速度を合わせて進み、船列を維持する軍事戦術です。転じて、各業界を所管する官庁が経営体力の弱い企業であっても脱落しないように事細かく指導する行政手法を指します。前述の長官発言は、金融庁が守るべきは金融業界ではなく金融機能である、という宣言でした。当時は「伝統的な銀行は将来、姿を消すだろう」というフィンテック脅威論が金融界に渦巻いていました。

 しかし、現在ではそのような脅威論は下火になっています。私が過去に取材したフィンテックの起業家たちは、従来の金融サービスに対する利用者の不満を取り除き、より暮らしやすい社会に変えたいという志を持つ方ばかりでした。起業家が事業プランを実現するためには、2種類のスタンスがあります。一つは、既存の金融機関との直接対決に挑むディスラプター(破壊者)。もう一つは、既存の金融機関と共存するパートナーです。


 ◆破壊者かパートナーか

破壊型の代表格は、「チャレンジャーバンク」や「ネオバンク」と呼ばれる新興銀行です。店舗は持たず、スマホアプリを通じてサービスを提供するのが特徴です。前者は自ら銀行免許を保有し、後者は保有しないという違いがあります。ただ、共存型と比べると、劣勢はいなめません。その一因は、顧客基盤の違いです。既存の銀行のメイン顧客は、多額の資産を持ち、めったに取引銀行を変えることがない高齢層が中心です。対照的に、新興銀行の場合は、価格に敏感で、より良いサービスへの乗り換えをいとわない若年層が主体ゆえに、苦戦を強いられています。

 それでも、破壊者が利用者にもたらす恩恵は小さくありません。ライバルに危機感を植え付けた結果、既存の銀行も新たなサービスの導入を競い始めました。一昔前は、銀行の商品・サービスを利用するには、顧客の方から支店に出向く必要がありました。しかしデジタル革命により、たいていの金融取引はオンラインで完結します。そのため、物理的な土地・建物を有する実店舗は、その存在意義を急速に失いつつあります。実店舗を今後どこまで減らし、残った有人店舗にどのような役割を割り振るかは、銀行にとって避けては通れない重要な経営課題となっています。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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