バンカーの幸せ⑤~共感生む利他の精神 ギブが近道
2024.01.14 04:52
前回は徳についてお話しいたしました。利他の精神は共感を生み、他者評価を高めます。成功者はテイカーではなく、みんなギバーだという研究もあります。
私たちはよく、収益性、効率性という言葉を使います。そしてそれに合わないことは、無駄だと排除します。しかし、「無駄」とは「目的」「期間」を定めないと決まらない概念だと、東京大学の西成教授はおっしゃいます。例えば、大学入試に無い科目を勉強することは、大学入試に合格するという目的のためには無駄でしょう。一方でそれは、良い社会人になるためには必要な学びかもしれません。収益性、効率性という言葉が、もっぱら短期的な目先の利益の追及のみに使われているとしたら、持続的な成長のためには危険なことかもしれません。
何のための効率なのか? 短期的収益か、持続的な繁栄か? さらに、金、物、地位といった地位財か、幸せやよき人生といった非地位財か? その目的によって、その行動が無駄かどうかも変わってきます。視野を広げると、多様な価値観や様々な人生観があることに気付かされます。
日本には、たくさんの逆説のことわざがあります。「損して得取れ」、「苦あれば楽あり」、「急がば回れ」、「急いては事を仕損じる」、「情けは人の為ならず」、「慌てる乞食はもらいが少ない」、等々。
私は、「三手の読み」という言葉でこれを説明しています。自分の利益だけ考えて行動する⇒お客様が嫌がる⇒取引を失う。一方、お客様のために尽くす⇒お客様に感謝される⇒取引が広がる。実は、取引拡大、収益増強のためには、お客様へのギブから入るのが最も近道の場合が少なくありません。
地域金融は農耕民族的な事業ですから、土地を耕し肥料を撒くことで、豊かな収穫が得られます。刈り取りつくし荒れ果てた田畑からは、もう実りは得られないでしょう。
近江聖人と言われた中江藤樹は、五事を正すと説かれました。貌:なごやかな顔つきで人と接し、言:思いやりのある言葉で話しかけ、視:澄んだ目でものごとを見つめ、聴:耳を傾けて人の話を聴く、思:真心をこめて相手のことを思う。
また、無財の七施という言葉が仏教にはあります。お金や物が無くてもできるお布施ですね。眼施:やさしい眼差し、和顔施:にこやかな顔、言辞施:やさしい言葉、身施:身体を動かす、心施:心をくばる、壮座施:席や場所を譲る、房舎施:家を提供する。
素晴らしい経営者の方の立ち振る舞いからは、五事を正すや無財の七施を感じることがあります。徳のある経営者の姿は、私たちの良い手本になります。自分はお客様にどのような態度で接しているか? 仕事を通じて徳を積めているのか? は経営者としての私の自戒の問いです。
次回(2月11日)は「運」についてお話しをしたいと思います。
筆者プロフィル
新田信行(にった・のぶゆき) 開智国際大学客員教授、一般社団法人ちいきん会代表理事。
千葉県出身、1981年一橋大法卒、第一勧業銀行(現みずほ銀行入行)、みずほフィナンシャルグループ与信企画部長、みずほ銀・銀座通支店長、同・コンプライアンス統括部長を経て2011年みずほ銀常務執行役員。2013年第一勧業信用組合理事長、同会長、2021年退任。2016年黄綬褒章受章。
著書 「よみがえる金融」(ダイヤモンド社)、「誇りある金融」(共著、近代セールス社)、「リレーションシップバンキングの未来」(共著、金融財政事情研究会)
新田信行氏の過去の連載 はこちら アフターコロナへの展望(全10回)
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