Nikkin金融講座 金融入門(11)なぜ銀行は、こんなにも規制に縛られるのか(2)

2023.12.15 04:01
金融入門
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 ◆健全性のバロメーター

前回は、銀行が他の産業や国民生活を支えるインフラ的な役割を担っていること、それゆえに経営が傾かないように日頃から国の厳しい監視を受けていることを説明しました。今回は、具体的にどのような規制があるのかについて、代表的なものを紹介します。

 まずは自己資本比率規制です。自己資本とは、株式を発行して集めたお金(資本金)や、利益の蓄積である利益剰余金など、返済義務のないお金です。融資の焦げ付きや有価証券の値下がりで損失が生じた場合には、その穴埋めに使うことになります。つまり、自己資本の多寡は、銀行の健全性を推し量るうえで重要なバロメーターとなります。損失が膨らんで自己資本がマイナスになることを債務超過と呼び、銀行は経営の継続を断念せざるを得なくなります。

 そのため、銀行は損失を被る恐れのあるリスク資産の合計額に対し、十分な水準の自己資本を持つように定められています。日本国内だけで活動する銀行はリスク資産の4%以上、海外でも金融業務を行う銀行は8%以上の自己資本を持つ必要があります。リスク資産を減らすか、自己資本を増やせば、自己資本比率が高まります。

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 ◆証券化商品で“食中毒”

証券化商品という複雑な金融商品が生まれた一因は、通称「バーゼルⅠ(ワン)」という厳しい自己資本比率規制に対応するためでした。融資先の企業から利払いや元本返済を受ける権利を細切れにして、新たな債券を発行する手法です。これにより、融資先企業が返済不能に陥った際の損失リスクは、銀行から債券購入者に移転します。

 その後、バーゼルⅠの次の規制である「バーゼルⅡ(ツー)」に移行すると、金融機関は規制の隙をついて企業向け融資だけでなく、リスクの高い「サブプライム」の住宅ローンも証券化の対象にするようになりました。多くのローン債権をひき肉のように切り刻み、そのミンチを混ぜ合わせて詰め込んだソーセージのような証券化商品が「CDO(債務担保証券)」です。そこに紛れ込んだサブプライム住宅ローンが焦げ付き始めると、投資家は“食中毒”を恐れて誰も買わなくなり、CDOが値崩れして世界的な金融危機の引き金となりました。その反省から、現在は「バーゼルⅢ(スリー)」という新たな規制が導入されています。

 自己資本比率規制は、銀行の破綻(はたん)を未然に防ぐための「事前的措置」です。他の事前的措置としては、(1)特定の企業グループへの融資額が過大になってリスクが偏ることを避ける「大口融資規制」(2)銀行が金融以外の慣れない業務に手を広げて失敗するのを防ぐ「業務範囲規制」(3)銀行が株式保有を通じて事業会社のオーナーになり本業以外で損失を抱えるのを回避する「議決権保有規制」――などがあります。


 ◆破綻に備えた安全網も

その一方で、「事後的措置」もあります。仮に銀行がつぶれた場合でも、混乱を最小限に食い止めて、銀行の連鎖倒産を防ぐための仕組みです。その一つが預金保険制度です。銀行が破綻しても、元本1000万円までの預金とその利息は必ず戻ってきます。預金保険機構が毎年、預金量に応じて銀行から保険料を集め、万一に備えて積み立てているからです。預金を受け入れる金融機関は、この保険に必ず加入しなければなりません。

 金融機関が破綻した際に、その顧客の財産を守るための仕組みを「セーフティーネット(安全網)」と表現します。本来は、サーカスの空中ブランコや綱渡りの落下に備えて、下に張られている網のことです。農協や漁協の破綻に備えた「農水産業協同組合貯金保険機構」や、証券会社の破綻に備えた「投資者保護基金」、保険会社の破綻に備えた「保険契約者保護機構」というのもあります。

 いくつもの金融危機を経て「事前」と「事後」の2段構えの規制が出来上がりましたが、かといって万全な銀行規制は存在しません。世界的なマネーの動きや銀行が抱える新たなリスクなどの時代の変化に合わせて、継続的にメンテナンスしていくことが欠かせません。

 日本金融通信社編集局 国定直雅

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